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「あ、お町、誠次と一緒に来たの?」

芝居小屋の表で平次に会い、控え室に連れて行かれた。

「茶でも飲みな〜」

雪花楼の見習いの子が茶を運んでくる。

「平さん〜もう満席なんて凄すぎ〜」

お町はハイテンションを取り戻した。もともと無敵のライターである。

「お町の脚本のお蔭もあるね・・いつもありがとう。」

「いくらお紺ちゃんの親友でも、平次が世話になってても、二次創作はお断りですよ」

茶をすすりつつ釘を刺す誠次郎。

「お町・・・とうとう掛け合ったのかい?辞めろといったのに・・・」

平次は苦笑する。

「だって、今年最高のベストカップルに選ばれたのよ〜」

知らないところで好き勝手にされている・・・という恐怖におののく誠次郎。

「いい加減にしろよ・・・お町は誠次郎をよく知らないから、そんな怖いもの知らずな事が出来るんだよ・・・」

警告する平次・・・

(いや、もう手遅れです・・・知ってしまいました・・)

お町は言葉を失くす

「ヤバいことはするなよ〜俺、フォローしないよ〜」

平次は何処となく冷たい・・・・

「あら〜若旦那〜お町さんも〜いらっしゃい」

支度中の今回のヒロイン、芙蓉が通りがかりに挨拶をして行く。

「芙蓉ちゃん可愛いよね〜ふふふ・・・」

(お町、その笑い何?)

誠次郎は思いっきりひく。

平次の妻、お紺は平次の幼馴染で、妹のようにいつも平時と一緒にいた。だから誠次郎はよく知っていて、

そのお紺に、これまた付きまとうお町のことも、なんとなく昔から知っていた。

お紺はごく普通の、何処にでもいる娘だった。が、何故か平次に一目ぼれして子供の頃から平次の追っかけをしていた。

寺子屋で友達一人なく、家の家業が陰間屋ということでいじめられていた平次を、何の偏見を持つことなく慕っていた。

そして、近所で変な子と噂されていた異端の少女をも、何の偏見もなく親友にしていた。

(お紺ちゃんはいい子なのに・・・人間関係が破綻してるよな・・あの子。お町は年々おかしくなっていくし・・・)

ため息をつくと、悠太を見る。

すました顔で茶を飲む悠太・・・・

悠太は菊モノ自体が何かわかっていない。本は学問書しか読まないからだ。

「あらぁ〜いらっしゃあい〜お町姉さん!若旦那〜悠太ちゃんも〜おひさしぶりぃ〜」

突然、ゴリラ並の大男が乱入してきた。

代官の扮装をした、オカマ口調の謎の男・・・・

「桃ちゃん〜」

お町はゴリラに駆け寄ると手を握ってぴょんぴよん跳ねた。

女子中学生のような仕草に、もの凄い違和感を感じる誠次郎。

「誰ですか・・・」

お久しぶりといわれても、記憶が無い。

「悠太、桃若だよ。」

桃若・・・

といえば・・・白梅が悠太に火傷を負わせたため、落としまえとして他所の廓に追われた後、やって来た陰間。

15歳でかなり旬を逸脱しているにも関わらず、絶世の美少年のため平次が寵愛していた・・・・

「え!まさか!」

「そのまさかだよ・・・俺もこればっかりは予想も付かなかった・・・まさかこんなに大きくなるとは・・・」

(というか、別人ですけど・・・)

 「ああ、よく見ると面影あるかも」

誠次郎は笑顔で言う

どちらかと言うと、桃若は精悍な面立ちだった。少年剣士のような・・・

それが普通に成長すると・・・

女みたいな男の中で見るから、ゴリラに見えるが、普通に見れば恰幅のいい日本男児。

笑わず寡黙にしていれば、なかなかの男前ではないかと思う。

最近見た、顔見世の歌舞伎で弁慶を演じていた役者に何処か似ていた。

「悠太ちゃん〜元気〜?大きくなったわねえ〜」

頬に手のひらを当てて笑顔で話しかけてくる声は太い・・・・

(いえ・・貴方ほどでは・・・)

悠太は戸惑う。

火傷の騒ぎの後、すぐ結城屋に移った為、悠太はあまり桃若とは交流が無い。

が、あの時も、精悍な逞しい顔に似合わない乙女のような性格をしていたことだけ覚えている。

悠太の火傷の事情を聞いて、涙を流しながら毎日、包帯をかえ、薬を塗ってくれていた。

気が弱く優しくて、世話好きな年上の新入り・・・

「幸せそうでなによりね・・・」

心の美しさは今も変わらない。

「桃若さん、見違えましたよ・・・」

「ガテン系になっちゃった〜困ったなあ・・・・」

大男の着ぐるみを来た乙女・・・・

「今回は悪代官役かい?」

誠次郎は笑いながら訊く

「私のようなものでも、使い道あるって嬉しいわ〜」

(そうだね・・・桃若さんしか出来ない役かもね・・・)

それでも、お座敷では人気NO1である。芸達者でお笑い系要員でもある。

気が利いて、気配り抜群で客受けもいい。

ただ・・・

買う人がない・・・・

しかし、彼は王子様を待ち続けていた・・・・

「桃ちゃん・・・始まるよ」

桔梗が呼びに来た。

「また後で・・・失礼します」

去って行く乙女な大男・・・・

 

「平次・・・雪花楼ってマニアックだな・・・」

誠次郎の言葉にため息な平次・・・・

「そういうなよ・・・俺、あいつ好きなんだ。捨てられないんだよ。あんなにいい奴いないぜ。

ウチじゃ皆世話になってる。女なら文句なしなのにな。なんか間違えて生まれてきたんじゃないか?」

笑えない。

誠次郎も、悠太も深刻になってしまう。

「運命の人を待ち続けて諦めない、健気な奴なんだ。」

「ほんとに、桃ちゃんたら〜何であたしじゃ駄目なんだろう?結婚してって言ったらね、

女同志は駄目〜とか言われて・・・フられちゃったのよ〜」

涙目のお町。かなり本気らしい

(というか・・・お前、何処までおかしいんだ・・・)

誠次郎は心で突っ込む

「あいつは、自分は女だと信じてるんだ・・・」

平次が呟く

(それは不憫だ・・・・)

ため息の誠次郎・・・・・

友達的には好きでも、誰も彼を恋愛の対象にはしない・・・・

愛されない・・・・

人事ではない・・・・

 

「まあ、それはそうと、俺らも客席に行こうぜ」

二階の特等席をとってもらっていた。

 

「おい、遅いな」

すでに恭介が来ていた。

「恭ちゃん〜来てたのぉ〜」

誰にでもタメ口なお町。

「お町〜相変わらず変な格好してんな」

恭介は、すっかり町人髷になっていた。

「髷変えたんだ〜結構似合うじゃん」

そう言って隣に座る。平次、誠次郎、悠太も席に着いた。

「恭介さん本当に似合ってますよ」

悠太にそう言われて、恭介は寂しげに微笑む。

「悠太も、そろそろ元服だよな・・・月代剃るんだろ?」

「そうですね、丁稚達の手前、遅らせる訳にはいきませんねえ・・・」

町人とか武士とかのこだわりも無い。今を一生懸命生きよう。そう決めた恭介と悠太・・・

誠次郎は、そんな彼らを羨ましく思う。

お町のこだわりも、力強さを感じるし・・・

彼らの中にいると、なくした自分を探し出せるよう気さえした

「さ、始まるぞ」

平次の言葉に一同は前を向く。

灯りをたくさん灯された、前方の舞台で幕が上がった・・・

  

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