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「・・・まあ、そんな事があってさ・・」
誠次郎は、今までのいきさつを平次に語る・・・
「そうか、ばれちゃったんだな。」
注文の品を受け取りつつ平次は頷く。
「て・・・お前知ってたのか?悠太の正体を・・・」
「ああ、本人から聞いた。だって、女装少年なんて、わけありだろ?」
5年前・・・
曙楼の女将が訪ねてきて、少年を買えと言ってきた・・・
ーあたしもヤキがまわったよ。女の子と思って買ったらさ・・・ついてるんだよね。なんで確認しなかったんだろ・・・・−
ー買う前に痣とか、傷とか確認しなかったんですかい?−
ーしたさ。で、肝心なとこ確認しなかったんだー
ー女将さんも、ヘマしたね。−
ー顔も綺麗だ、品もある、肌は白い、傷も痣も無い。100年に1度の上玉だと有頂天になっちまってさ・・・−
確かに上玉だった。
ーだからさ・・・特別、雪花楼に譲ってやるよ。ー
そんな経路で悠太は、平次の元に来た・・・・・
ーお前、なんで女装してたんだ?−
曙楼の女将を帰した後。平次は聞いた、鳴沢藩の若君の数奇な運命を・・・・
「私にそれ、黙ってたんだね・・・」
誠次郎は少しムカついていた。
「どうせ知ってたんだろ?つーか、鳴沢藩の若君が陰間に落ちたなんていえるか?」
平次はそっぽを向きつつ、キセルで煙草をふかす。
「そのわりにゃ・・・売り物にしちまうんだな」
悠太がらみだと誠次郎は激しく突っ込む・・・
悠太は横でハラハラしていた。
「慈善事業じゃねえんだこれは。で、上手くまとまったんなら、よかったじゃん」
しばし、沈黙が流れる・・・・・・
「そうか、じゃあな」
桔梗が置いていった品物の代金を懐に納めて、誠次郎は立ち上がる。
「怒ったのかい?」
「私より悠太の事、詳しいなんてチョット許せないねえ」
やきもちだ・・・・
「しょうがないだろ、俺は雇い主だったんだぞ」
ため息の平次、悠太は苦笑して立ち上がる。
「今回の一件も、お前にゃ報告してやってるのにさ・・・」
あのな・・・半泣きになる平次。
「若旦那、大旦那さんは私の事を思って伏せておられたんですよ、ご機嫌なおしてください」
そういいつつ悠太の必殺技である、微笑が出た。
首をかしげて微笑む反則技だ、
「・・・そうだな、ま・・仕方ないか・・・」
とたんに軟化する誠次郎。
・・・・・・・
平次はあきれ果てた。
(何!?こいつら!!!!)
「悠太〜もう、私に隠し事無しだよ〜」
「はい」
「今晩、夜通しで暴露大会だよ」
(夜通しかい!夜通しって・・・)
大きく引きつつ平次も立ち上がる。
「じゃ、若旦那も暴露してくださいね〜」
「あ〜若旦那はパス〜」
「え〜ずる〜い!!」
(おい!何いちゃついてる!)
玄関に向かう二人の後姿に心で突っ込む。
「つーか、暴露大会は辞めろ!破局が来るからな!」
と言った後、平次の脳裏には狐と狸の化かしあいの場面が浮かんだ・・・・
(まあ・・・・いいか)
ああ見えて、悠太は誠次郎の操縦は上手い。
そういうところを見ても、上玉だったのだ。
悠太にかかっちゃ、天下の腹黒も、ただの”若い子にメロメロのオヤジ”である。
(悠太、恐るべし・・)
「でもさ、恭介は鳴沢公を想い続けているということは、私に言い寄ってたのはナンだったんだ?
結局、体目当てかい?」
悠太と並んで歩きつつ、誠次郎は愚痴る。
「恭介さんのタイプなんでしょ?桔梗さんと若旦那も、なんとなくタイプ似てますから・・・」
ふうん・・・
顎に手を当てて考える誠次郎。
でも、それは亡き鳴沢公の面影なのかも知れない・・・・
「悠太、鳴沢公の記憶は無いのかい?」
「はい」
「もしかしたら、私や桔梗みたいに細長いかも知れないよ。」
それはありえるかも知れない。桔梗も、誠次郎も鳴沢公の身代わりだとしたら・・・・
「悠太は後3年したら、私くらい大きくなったりしてね〜」
自分は父に似るのだろうか・・・悠太はぼんやりそんな事を考える・・・
「大きい私はお嫌いですか?」
廓でも、陰間の旬は18まで。骨格がガッシリして、声変わりすると、もう売り物にならない。
その中でも、華奢なまま成長したものだけが生き残れる。
桔梗は背は高めだが細いので、少年嗜好型ではない客には受けがいい。
「大きくても小さくても、悠太は悠太だよ。私の愛は変わらないからね」
「若旦那〜またそういう事を・・・」
照れて俯く悠太に、誠次郎は笑いかける。
「でも、大きくなって、男らしくなって、嫁貰って・・・そうなるのかな・・・悠太も」
いつまでも悠太と一緒にいたいが、悠太が所帯を持つ事を反対する事は出来ない。
「嫁なんて、貰いません。ずっと若旦那と一緒にいます」
叶わない夢であっても、そう願う。
はははは・・・
笑って誠次郎は悠太の手を取る
「前田屋で大福食っていこう」
「あそこ並んでますよ」
ははははは・・・・
「わたしゃ、顔パスなのさ〜」
どうやら貸しを作ったらしい・・・・
というか、結城屋に楯突けるツワモノなど、この近所にはいない。
町の大ボス・・・
それを、誠次郎が望んだか否かは定かではないが。
「若旦那も、甘党ですね・・・」
悠太は笑うが、小さい時にそういうものに飢えていて、今になって、煩悩しているらしかった。
とにかく、中身がお子様な若旦那と、前田屋の暖簾を、悠太はくぐる。
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