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次の朝には、誠次郎は元のへらへらに戻っていた。

悠太は丁稚達に、店の掃除をさせながら棚を磨いていた。

(幼い身で奉公はきついだろう、が、廓よりは何倍もましだ。それに若旦那が厳しくいない分、彼らは楽なのだろう)

だからこそ、悠太は 後輩達を甘やかさないように気を使っていた。

日々努力しなければ、のし上がれない。一生雑用で終わる訳にはいくまい。

「朝からせいが出るねえ・・・」

大番頭の源蔵がやって来た

「おはようございます」

悠太が挨拶すると、丁稚達は口々に挨拶する・・・

「源さ〜ん」

気の抜ける声で呼ぶのは誠次郎。

「今日、恭介来るから、仕事料の準備しておいて」

「仕事料って・・必殺仕事人じゃないんですから。若旦那、芝居見物のしすぎですよ」

ため息と供に、源蔵は台帳を取り上げる

「若旦那・・・内山様、あんまりいい噂聞きませんよ。影で主君のあだ討ちの計画してるとか・・」

小声で、源蔵は誠次郎にささやく

「ホント〜!?そんなにあいつマジメなの〜ただの色ボケかと思ってた」

内山恭介・・・今は簪職人をしているが、元武士である。

お家お取り潰しになり、浪人の憂き目を見ているが、帯刀している。誠次郎より5歳年上で30歳。

そんな彼を、色ボケと言ってのける誠次郎が怖い

「あの・・・若旦那、内山様は女っけの無い方で有名ですよ?」

「ベクトルが違うだけですよ」

はあ?

謎の大番頭・・・・

 

悠太は知っている。

恭介は明らかに、誠次郎を狙っている。

いやになれなれしいし、悠太を敵視している。

背は誠次郎より低めだが、元武士だけあって、逞しい。剣術で鍛えぬいた体・・・とでも言おうか。

悠太は、だから、心配でたまらない。

 

内山の主君は、濡れ衣を着せられて切腹となった。

その濡れ衣を晴らし、乳母と城を逃れて現在行方不明の若君を見つけ出した後、お家再興を・・・と狙っている。

その若君探しを、誠次郎は手伝っていた。

商人のネットワークで情報を集めているらしい。

 

誠次郎は、悠太に恭介とは話すなと言う。

顔はあわせても、話したり二人だけになる事は、今までなかった。

悠太は、それを誠次郎の独占欲と思っていたのだ・・・

 

 

「よお〜」

野太い声で現れた恭介・・・未だに侍の髷を結っている。

悠太は茶を持って、客間に向かう・・・・

 

「若旦那は只今、在庫整理です。少々お待ちください」

そう言って茶を差し出すと、恭介は悠太を見据える

「悠太だっけ・・・掃き溜めに鶴だな。お前。どこの出身なんだ?」

「雪花楼です・・・」

「そういう意味じゃなくて、生まれだよ、生まれ」

「記憶が無いんです。物心ついたときには、父も母もおらず、母代わりの女と二人暮しでした・・・何か?」

「いや、どっかで見たような・・・」

首を捻る恭介の前に、大慌てで駆け込む誠次郎の姿があった。

「恭介!!!待たせたな」

と悠太を見る

「よし。何もして無いな・・・よしよし。」

「何だよ!俺がこんなガキに何かするとでも?」

怒りが頂点の恭介

「お前は危ない」

「俺が好きなのは誠次だけだぞ!それに年上に偉そうな口きくな!」

うんうん・・・・誠次郎は頷きつつ、袱紗に包まれた小判の束を差し出す

「仕事料はやるから、落ち着け」

はははは・・・・・

「おい!俺は必殺仕事人じゃ無いぞ!」

ふうん・・・・

と誠次郎は顎に手を当て考える

「仕事人だとすると、お前は、簪職人か?でも、姿は侍だし・・凶器はやはり刀か?それとも簪?」

「違うって言ってんだろ!」

「簪屋の恭介。ただし元武士・・・・」

「仕事人から離れろ!!」

 

最近、若旦那は、必殺仕事人に嵌っているらしい。

 

「それはそうと・・・若君は?」

「上方あたりで、それらしい少年を見たという人がいて、調査中だ」

「そうか・・・」

美剣士というより、何処か剣豪っぽい恭介。

こんなガテン系から、あんな繊細な簪や笄が生まれるとは・・・悠太は盗むように恭介を見つめる

 「何?」

見つめられて、恭介は、悠太にけんか腰になる

「指先・・・細くて綺麗ですね」

身体に似合わず・・・・

「悠太の指の方が綺麗だって〜」

誠次郎が突っ込みを入れる

「俺のは綺麗なだけじゃなく、手先も器用なんだ」

威張り気味に言う恭介

「細工、見事ですものねえ・・・」

素直に褒める悠太

「いい仕事するぜ〜誠次?」

はははは・・・

「平次もご満悦でしたよ」

「じゃなくて・・・アッチ」

誠次郎の肩に腕をかけて引き寄せる恭介・・・

「いい加減諦めろ!」

少しむかついて、鉄扇ではたく誠次郎

「何で鉄扇なんか持ってやがるんだよ!いつもの事だけど・・・」

打たれた手の甲をさすりつつ、恭介は叫ぶ

「私の武器ですよ。刀もある程度は防げる」

明るく笑いながら言う事ではないのに、誠次郎は明るい。

「おめー何モンだ?」

「自分の身は自分で守らないとね・・・・」

恭介は、自分と同じ匂いがする誠次郎を見つめる。

(コイツも何かの修羅場をかいくぐって来たんだ・・・)

「ところで、悠太は店にお戻り」

誠次郎の言葉に、悠太は会釈して部屋を出てゆく。

 

「二人っきりになりたかったのか?最初っからそう言えよ・・・お前ってツンデレだな・・・」

再び誠次郎の肩に手をかける恭介

「ちがうよ、悠太に、お前の色ボケが移るからだ」

そう言いつつ、恭介の手を払いのける

「かなり溺愛してるな・・・あれはお前の色小姓か?」

茶をすすりつつ、恭介はニヤニヤする

「汚い想像しなさんな」

「前田利家も小さい時は、織田信長の色小姓だったんだぜ・・・こういう事は武士の風習だから」

あきれた誠次郎は、湯のみを取り上げて茶を飲む

「あたしゃあ商人ですよ。武士じゃありません。それに織田とか前田て誰ですか?」

ふうん・・・・腕組みして頷く恭介。

「いや。いいんだ。俺は気が長いからな。無理やり誠次をモノにしたって嫌われるだけだ・・・俺が欲しいのはお前の心なんだぜ・・・・」

(なにを、クサいセリフいってんだ・・似合わねえぞ・・・)

笑顔の裏の無言の突っ込み・・・・・

「ところで、雪花楼から注文とって来たんですよ。」

と、注文を書いた紙を差し出す

「桔梗か?」

紙を受け取りつつ、恭介は呟く

「お前さん、通ってんだって?」

恭介は桔梗のお客らしい・・・

「妬いてんのか?」

「悠太には手ぇだすな!」

ため息の恭介・・・二言目には悠太悠太・・・・・

「あんなションベン臭い小僧、シュミじゃねえよ」

恭介は美人系が好きで、可愛い系はシュミではない。もちろんショタでもない。

悠太が誠次郎の色子でも、なんとも思わない

誠次郎が自分を見てくれさえすれば・・・・

それが叶わないので彼はイライラするのだ・・・・・

 

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