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「ところで、物、見せてもらうよ。」

悠太は頷いて、平次の前に風呂敷包みを差し出す。

「今回は、お染太夫の顔見世の支度の一式だよな」

茶をすすりつつ、誠次郎は確認する。

ああ・・

一つ一つ吟味しながら、平次は感心する。

「いい仕事してるねえ」

「一味違うだろ?恭介は手先器用だから・・・彫りなら彫り。すかしならすかし。完璧だよ」

「ありがとう。」

紫の袱紗に包まれた、小判の束の塊を誠次郎に差し出す。

「お披露目の着物とコラボレーションすると話題になるんだ。ファッションリーダーになれば、

おのずと格も上がるしなあ・・・」

ただの陰間を巷の大スターに育て上げたのは、他ならぬこの平次。

定期的に唄、舞、芝居の公演を催し、町娘のファンを獲得し、太夫たちの錦絵を書かせて売り出し、

挙句の果ては、太夫の引退時には、使っていた打ち掛け、帯、かんざし、笄、帯止め、

香袋などなどをオークションで売り出し、その売り上げを太夫たちへの餞として渡していた。

世間は平次を、総てを余すことなく金儲けの対象にする奴 ー守銭奴ー とののしるが、

誠次郎は知っている

これは、廓から出た陰間たちの行く末を思ってのことだと。

身請けされて出たものも、飽きられれば捨てられ、売り飛ばされる。

年季明けで出たとしても今更、職も無い。

頼りになるのは手に職を持つ事と、そのための資金。

有名になれば、踊りの師匠のクチもあれば、呉服屋のコーディネーターのクチもある

そのほか、個人の才能開発も廓で行っている。

一世を風靡したなら、陰間との罵られる事もない。だから彼は、廓から大スターを出そうとする

「お前はいい奴だよ・・・世間からは誤解されてるけどね」

ケラケラ笑いつつ、説得力の無い、物言いの誠次郎

「誤解、されてるよな・・・ "銭形平次” なんて呼ばれてるし」

苦笑する平次に、悠太は微笑みかける

「カッコいいじゃないですか・・・銭形平次って・・・」

いや・・・・

言葉もなく平次は落ち込む・・・・

「悠太〜それはね、魂まで銭に支配されて 銭の形をした銭の化身の平次・・・

略して銭形平次・・・つまり、守銭奴って事なんだよ」

「ひどい言いようですね・・・」

真実を知りショックを受ける悠太・・・・

悠太は知っている

雪花楼は陰間の足抜けゼロで、廓内死亡率もゼロである事を・・・・

事あるごとに起こる、仕置きと称しての折檻や、折檻が原因の陰間の死亡。

または世を儚んでの自殺・・・・

そんな、廓の日常茶飯事を悠太も知っている

平次はそんな事をしない、むしろ売り物だと傷一つつけぬよう大事にしている。

もちろん陰間に暴力を振るった客は、二度と店に入れない。

そんな、ぬくぬくした環境の中で、逆に陰間をわがままにしたのも事実。

そして・・・陰間同士のいじめ、足の引っ張り合いが影で横行した。

悠太の事件はその最たるもの。それから、かなり改善して今に至る。

「大旦那さんは、いい人ですよ」

平次の手をとり、そう言う悠太に、平次はすがって泣く

「悠太〜お前だけだよ〜〜〜〜俺の理解者は〜〜〜〜」

とたんに、誠次郎に引き離される

「おい!どさくさにまぎれて悠太に抱きつくなつーの」

いきなり人格が変わっている・・・・・

「俺はただ・・・純粋に・・・」

「陰間専門の遊郭の主人なんか信じられない!悠太は私のモノですよ!」

と言いつつ、悠太を後ろに庇う誠次郎。

ナンなんだ・・・・それは・・・・

いつもの事ながら唖然とする平次。

「大人気ないぞ・・・お前」

「子供でもいい。悠太に触るな」

とんだ過保護だ・・・・・言葉も無い・・・・

でも仕方ない・・・・平次はそう思う。

誠次郎は幼い頃、継母と腹違いの兄に、愛したもの総てを奪われてきた。

その手には何一つ残らなかった。

結果的には店を譲られたが、それは彼の望んだものではない・・・・

彼の人生で唯一つのこだわりは悠太。他には無い

故に、ひと時も悠太を離さない。

どうでもいい、こだわりの無い人生を生きてきた誠次郎に、唯一無二が現れた。

これは彼にとって、また、悠太にとって、いい事なのか・・・・・・

(なんにしても、極端な男だ)

 

「若旦那〜大旦那さんとは何でもありませんよ〜私は丸ごと若旦那のものですよ」

 「本当かい・・・悠太〜」

「おい!」

ひしと抱き合う二人を振りかえり、平次は突っ込みを入れる

(俺を無視してイチャついとんのかい!)

おかしい!絶対こいつらおかしい!

今に始まった事ではないが・・・・・

 

 

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