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のどかな昼下がり・・・・・

姿の見えない誠次郎をさがして、屋敷を徘徊する源蔵の耳に、アヤシイ声が聞こえてきた。

 

 

「あ・・・若旦那・・・辞めてください、恥ずかしいです〜」

「そんな事ないよ、綺麗だよ、悠太」

「でも、、私は男なんですよ」

「関係ないよ、男だろうが、女だろうが。悠太は本当に嫌なのかい?」

「いえ、若旦那が望むのなら私は・・」

「そう、いいんだね。じゃあ・・・」

 

 

「この馬鹿旦那!昼間っから何してんですか!」

耐えかねて、絶叫しながら障子を開けた源蔵は、凍りつく。

そこには、髪を結い上げ、振袖を着て綺麗に化粧を施した悠太の姿があった。

「大番頭さん・・・」

源蔵の大声に怯えた悠太は、誠次郎の後ろに隠れる。

「おい!源さん、悠太が怯えるじゃないか。大声出すんじゃないよ」

「というか、誤解しそうな卑猥な台詞はやめてください」

焦って、かいた汗を手ぬぐいで拭いつつ、源蔵は、ほっとする。

「どこが卑猥だと言うんですか。私はですね、先日の女装の強請りよりも、悠太の方が遥かに美しいという事を

証明しようと、悠太を女装させてみただけですよ。」

腕組みしながら、自らを正当化しようとしている誠次郎。

「・・・それで?」

「あまりの美しさに、店中に自慢して廻ろうという私の意見に、悠太は恥ずかしがって、

ここから出ないというので説得していたんです」

(紛らわしいんですよ・・・)

心で突っ込む大番頭・・・

「本当に、悠太は恥ずかしがりやさんだから・・・しょうがないねえ・・」

笑顔で悠太の髪を撫でる誠次郎をみつめつつ、源蔵はため息をつく。

(何をいちゃこらしてるんですか・・・)

「処で、源さん!さっき馬鹿旦那と言ったろう?」

どきっ!

「言ってませんよ〜若旦那!」

「言った言った。この耳で聞いた」

部屋の隅にいた髪結いが、不意に口を開いた

「お妙!どうしてここに!」

源蔵の孫娘である、髪結いのお妙は、悠太の髪を結う為、ここに呼ばれていた。

「私が呼んだんだ」

確かに源蔵つながりで、お妙は結城屋の専属理容師であるが・・・・

「おじいちゃん、駄目よ、主人に悪態ついちゃあ・・・」

(この裏切り者・・・)

実の祖父より、お得意様をとった髪結い。お妙・・・・

「それはそうと、源さん、さっき、どんな事を想像したんだい?」

うっ・・・

源蔵は言葉に詰まる

「卑猥な想像したんでしょ?」

笑うお妙。

「そう、源さんも私の事、そんな風に見てたのか・・・がっかりですよ・・・」

ほんとにがっかりなのか?満面の笑顔でそういう誠次郎。

「若旦那・・・」

それでも、かなり反省している源蔵。

先代から任された誠次郎を、そんな風に誤解したとは・・・

そして、口が滑ったとはいえ、自分の雇い主を馬鹿呼ばわりした・・・・

(先代・・・私はまだまだ修行が足りません・・・)

「若旦那・・・すみませ・・・」

顔を上げると誠次郎、悠太、お妙の姿は、部屋には無い。

 

 

「この姿でチラシ配ってくれる〜?」

「え〜〜若旦那〜恥ずかしいです。」

「何言ってんの〜私の為なら何でもするんじゃなかったの〜」

 

すでに店に向かっている3人・・・・置き去りの源蔵。

(おい・・舐めてんのか・・・・)

人の言う事なんか聞いちゃいない。自分の発言に責任の欠片も無い・・・

「ああ・・・・胃が痛い・・・」

真面目すぎな旧世代は、ナウなヤングに、ついては行けない事を自覚させられた。

いや、おそらく、あの若旦那が特別変なだけじゃないかと思うが・・・

 

 

散々引っ張っといて、笑顔でチラシ配っている悠太もありえね〜と思ってしまう。

先代が亡くなって7年・・・・

誠次郎に代替わりして、今まで心休まる日はなかった。

確かに、仕事は やり手だ。

結城屋を、雪花楼ご用達の店にしたのは誠次郎。(主人に貸しを作って契約したらしい)

雪花楼の太夫たちのかんざし、笄、帯止め等々はオーダーメイドで、流行の最先端をいっている

その、オーダーメイドのかんざし職人を発掘したのも誠次郎。

内山恭介と言う、かんざし職人は、結城屋専属で依頼人の注文を受けて作る。

恭介ブランドは、今やお江戸のトレンディ。

その恭介を握り続ける誠次郎は業界無敵。(弱みを握って専属にしているらしい・・・)

だからこそ、源蔵は誠次郎には何もいえない。

しかし、源蔵が誠次郎を”馬鹿”といってしまうのは、彼の人生観が間違っているから。

ああ見えて、決して深入りしない。

誰も、心の奥深くに入れない。人との接触を極端に避ける。

  ーほっといてくれー

無言でそう言っている・・・・

 

(悠太・・・)

店の表で、ファンの町娘に囲まれている悠太を見つめつつ、源蔵はひたすら祈る。

悠太が、誠次郎を開放するものとなる事を・・・

(お前しかいなさそうなんだ・・・)

女の姿をしている悠太の面影が、志乃の姿とだぶって見えた・・・

 

 

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