氷恋ー後日談ー

          

 

 

 「沖田、腹ごなしに稽古つけてやるから後で来い。」
食事中の沖田に、土方は通りすがりに声をかけた。
「沖田先生、大変ですね」
新入りの田中が横で同情する。
「いや、私が平突きの伝授をお願いしたんだ。」
「でも・・・・この前も首にかすり傷作ったんでしょ?」

(そんなこと覚えてなくていいのに・・・・・・)
と思いつつ、煮物をつつく
「組に広めるそうだから、いつかは君も習う事になるよ」
「ええっ!!!!」
「習得すりゃあ怖いもの無しだぜ」
田中は黙り込む・・・・・・

少し、ほっこりする沖田・・・・・あれからずーーーっと土方に放置されていたのだ。
忙しいのは判る・・・・が・・・公の場で目もあわせようとしない。捨てられ気分だった・・・・・

 

(でも・・・・ほんとの稽古?それとも・・)

道場に行くべきか、土方の部屋に行くべきか悩む・・・・・どちらでもいい、お呼びがかかったことが嬉しい沖田だった。

 

・・・・・・・しかし・・・・・・・・・・・

道場で待っても来ないので部屋に行くと・・・・・土方は眠っていた・・・・・・

(呼んどいて・・・・なんだよ・・・)

枕元に座り込み、沖田はため息をつく。

しかし・・・・寝顔の可愛さに口元が緩む・・・・・・日ごろの睨みを利かせた強面からは想像もつかない安らかな寝顔・・・・

(こうしてみると優男なのに・・・・)

眠りの中では、日ごろの重荷を下ろしているらしいと沖田はほっとする。

 

 

「!いつからそこにいる!」

突然目覚めた土方が起き上がった。

「自分が呼んだくせに・・・・・ひどいな・・・」

「起こせよ!!!」

「疲れてるみたいだったから・・・・」

溜め息をつき、額に手をやる土方・・・・・寝顔を観察されてバツが悪い・・・・

「で・・・・その竹刀はなんだ・・・俺を襲撃しに来たのか?」

道場から、竹刀をもったまま来てしまったことに今気付く沖田・・・・

「いいえ・・・・稽古・・・・つけるというので・・・・」

「!道場で待ってたのか?」

「はい」

(どうりで待っても来ないはずだ・・・・・)

「お前が遅いから、うとうと寝てしまっただろう!」

「ちゃんと布団の中にいるくせに・・・うとうと・・・ですか?」

「仕事が一段落ついたから、お前に会いたくなったんだ」

「いつも会ってますよ」

「そうじゃなくて・・・そばにいてくれ・・・・」

膝の上の沖田の手を土方は握る・・・沖田にだけ見せる甘え・・・・沖田はそれを拒めない。

「疲れてんなら休んだ方がいいですよ」

「だから・・・添い寝してくれ・・・今日は冷えるんだ・・・」

 

(まるで子供・・・・)

あきれながらも、そういうところがいとおしいと沖田は思う・・・・・

「では、そのかわり、腕枕してください」

「判った・・・」

横になり、左腕を伸ばす土方。

子供のように笑って、沖田はその腕を枕に横たわった。

「昔,試衛館にいたとき、よく歳さんの腕枕で眠ったよね・・・」

「まだ、お前が小さい頃だろう。」

小さい頃から沖田は土方になついていた・・・・弟のように・・・・・

「懐かしいなぁ・・・遠い昔のようだ・・・・」

「でかくなったな、総司・・・」

背は土方を追い越していた・・・・

「歳さんも、老けたね。」

こら!と沖田を小突く土方。

「昔はこんな冷え性じゃあなかったし」

と、顔を土方の胸に寄せて抱きしめる。感情を押し込め、鉄の意志を持てば持つほど心も体も冷めていった・・・・・

「だから、総司が暖めてくれるんだろう」

土方も沖田の方を向き、抱きしめる。

「猫みてぇだ・・・・・」

そう つぶやきつつ眠りに落ちてゆく土方・・・・・

 

 

悔いてはいない・・・・・沖田はそう言いきれる。       悔いないでほしい・・・・土方にそう願う

近藤局長と新撰組の為に犯した罪の数々を・・・・・

 

世界中が土方を非難しても、自分が守ってやろうと思った。皆が彼の元を離れても、残った最後の一人でありたいと思った・・・

(人一人送る度にこの人は地獄を見るのだ・・・・鬼になりきれない鬼・・・・誰が彼を冷血漢と呼ぶのか・・・)

 

哀しみに凍てつくその身体は氷のようだった・・・

 

 

 

 

「おい!!歳!!長州の密書を山崎が手に入れてきた。見てくれんか」

   朝、近藤に起こされた。徹夜続きだったので、今朝はゆっくり休むから起こしに来るなと言っておいた・・・・・・・

 しかし・・・近藤は別。

 半纏をひっかけて土方は寝室から出てくる。

「徹夜明けなのに起こしてすまん」

「いや・・・それより、密書って・・・」

「これだ」

近藤は紙縒りのように折りたたまれた紙を差し出す。

「本物か?」

広げて読んだ土方は首を振る。

「囮じゃあねえか?」

「そう思うか?お前も・・・」

「ということは・・・・山崎も・・・」

近藤はうなづく

「あんまり簡単に差し出すから怪しいと・・・・」

「じゃあ、間違いねぇな」

紙を近藤に返しながら土方は言う。

「ところで・・・なんで総司がここで寝てるんだ?」

ふすま1枚隔てた寝室で、沖田は再び絶体絶命だった。

近藤に踏み込まれ、起きるに起きれず寝た振りをしていたのだ

「同室の原田のいびきがうるさくて寝られないと、こっちに来たんだ」

相変わらずふてぶてしい言い訳だった

「一つの布団で男がふたりとは、窮屈だったろう・・・・・」

「いや、アイツがガキの頃から一緒に寝た仲だ・・・大丈夫だ」

「しかし・・・・もうあんなにデカくなってるじゃないか・・・布団もう一組、置いとけ」

「ああ・・・」

「じゃあ、ゆっくり休め」

 

近藤は出て行った

 

もう一度寝るために土方は寝室に入ってきた。

「大丈夫なんですか?」

「何が?」

「バレてないでしょうね」

「俺の寝室に踏み込めるのは近藤さんしかいない。その近藤さんが許可したんだ。」

「何を・・・」

「総司をここで寝かしていいと・・・・」

(・・・・・・・なんか違うような気が・・・・)

「近藤さんにバレるのは嫌か?・・・・・俺はなあ、総司、お前に惚れてる事を罪だとも恥だとも思わん。

ただお前の立場があるだろうと公にはせんのだ」

布団の上で腕組する沖田・・・・

「なに考えてる?」

「法度に背いた事にはならないんですか?」

「・・・・・隊内恋愛を禁止した覚えは無い」

「士道不覚悟は?・・・・」

「衆道は武士の風習だ」

(ふーん・・・・)

納得の沖田。

 

「まぁ・・・法度作ったひとが問題なしと言うなら、大丈夫なんだろう・・・・」

そうこうしているうちに、土方は再び眠りに落ちていた・・・・

 

 

 

「よっぽど疲れてるなぁ・・・・」

沖田は土方の寝顔を見詰めつつつぶやく

(近藤さんだけがここに踏み込めるか・・・・)

確かに副長の寝室に入れるのはその上の局長のみ・・・・だが、それだけじゃあない。

夜衣に半纏という姿はおそらく近藤以外の誰にも見せはしないだろう・・・・

(近藤さんは特別)

少し胸が痛む・・・・

(・・・・・ほんとの事知ったら近藤さん、怒るだろうな・・・・)

土方が近藤の前であんなにふてぶてしいのは恥じていないからだ。沖田がうろたえるのは・・・・・

(仲を引き裂かれるかも・・・って怖いんですよ・・・私は。)

土方の寝顔を見つめる。

 

(「お前に惚れてる事を罪だとも恥だとも思わん・・・・」か・・・・・!!!!それって・・・告白されてるの???)

 

 

ふっ・・・・・

沖田は立ち上がった。

 

「市中の見回りに行ってきますよ」

 

身繕いをして土方の寝顔にそう告げた。

 

 

               完

 

 

 

 

*あと(あ)がき あるいは言い訳*

どうしても書いてみたかった、近藤、歳ちゃん、総司の三角関係。

近藤ー土方の深い友情と信頼の世界に嫉妬する沖田・・・・しかし・・・沖ちゃん・・・嫉妬の余地なしと見た・・・

寝室に踏み込む程度じゃないでしょ・・・あんたは・・・同衾した仲・・・あわわ・・・・・

腕枕!いいですねぇ~萌えますね・・・・

稽古つけるといいつつ今回お稽古なしです・・・・でもらぶらぶです~ なにげに告白しちゃってます・・・・

(お稽古なしなら、いくらでも書けちゃいます・・・・はははは)

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