比翼  5.

 

 

この渡英中、兄にほったからされていた美奈は健人に懐いていた。

「おじ様〜」

と言いつつ、付きまとう美奈を優しくエスコートしている健人。

智のいない間、退屈しないように、あちこち見学に連れまわしてくれていたらしい。

「何か、あちらが本当の父娘みたいだね」

智はあきれて言う

「彼は娘も欲しがっていたからね。母が亡くなって、再婚もしないもんだから、もう無理だけど」

「再婚しないんだ・・・」

「一途なんだよ。」

悲しい瞳で悠利はそう言った。

でも幸せだと思う。それほど愛せる人に出会えたなら・・・智はそう思う。

そして、もう一度 愛する人にめぐり会えた自分は最高に幸せ者なのだろう・・・と

 

 

タクシーでセレスティア家の墓地に向かう途中、花屋によって墓前に供える花を皆で選ぶ。

ユリシーズに何の花を手向けるべきか思い悩む一行・・・

 「やはり、紅薔薇だと思いますよ」

智の一声で紅薔薇に決まった。

ユリシーズの記憶の中に、常に咲いていた紅薔薇・・・智の脳裏にもまだ鮮明に咲いている・・・

花弁は風に舞い・・・

その中に佇むユリシーズ・・・・・

血のような赤い薔薇の花束を買い求め、一行は再びタクシーに乗り込む。

 

 

 そしてたどり着いた、誰も来る者の無いひっそりとした墓地・・・その一角にユリシーズの墓はあった。

 

花を供え、智は静かに瞳を閉じる・・・・

(思い出の総てを捧げます。そして僕は明日から新しく出発します。貴方の送ってくれたマスターと。

だから・・・今だけは・・・あなたの事の思って泣くことを許してください)

智の閉じた瞳から涙が流れる・・・・

 

「お兄ちゃん・・・」

それを見て、近づこうとする美奈を悠利は引き止める。

智はデュークと最後の別れをしているのだ・・・・・悠利には判る。

時の狭間で出会い、そして別れ、再び決別をする。

(デューク、貴方の智は貴方が思っている以上に強いですよ。)

 

空を見上げると、青い空に白い鳥が2羽、飛んで行くのが見える。

 

(時を駆け抜け、運命を我が物にした。それが貴方の愛したドラゴンズ・ブラッドです・・・・)

悠利の瞳からも涙が溢れた。

 

(貴方の意志を継いで生きます。)

明日からは前だけを見つめて行くことを誓う。過去よりも未来よりも今が大切だと・・・

今が過去になり、未来へ繋がる。その時の流れの中で変わらぬ愛を紡いでゆく。

 

 

 

立ち上がって振返った智の顔は、晴れ晴れとしていた。もう、振り返らない。そう決意した、清しい表情だった。

 

「智。」

悠利の呼ぶ声に智は笑顔で答える。

「行こう」

 

もう振り返らない

 

前だけ見て進む。

 

それが悠利と智の決意。

 

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