比翼 4.

 

 

あまりにも色々な事が起こりすぎて智はその夜、眠れずにいた。

 

絵は竜崎邸に国際便で郵送してもらう事となり、悠利と智は再び

ロレンス卿の車でリチャードにホテルまで送られた。

1月1日の昼過ぎまでは、セレスティア邸は一族に開放されていて、その後は各自、帰宅することになっていた。

竜崎家は毎年予約している、いつものホテルのいつもの部屋があり、智と悠利はそこで待つ

健人と美奈の元に送られた。 

 

ー「おめでとうリチャード。セレスティアの一族になる事、歓迎します。」

別れ際の悠利の言葉にリチャードは微笑む。

「ありがとうございます。かねてからお慕い申し上げ忠誠を誓ったロレンス卿と結婚できるなど、身に余る光栄です」

悠利が見ても、彼はロレンス卿に命がけで尽くしている。

「ロレンス卿も貴方を心から愛しておいでの様子、お幸せに。今度会う時はミスター・リチャード

セレスティア卿ですね」ー

 

ロレンス卿に対して、リチャードに対して・・・悠利は別世界の住人のようだった。堂々として、大人びていて・・・・

 

「どうしたんだ?」

ソファーに腰掛けたまま物思いに耽る智の顔を、悠利が覗き込む。

大きなホテルの一室は、部屋がいくつもに区切られていて健人、美奈は一室つづ部屋を割り当てられ

悠利と智は同室になった。と言うのも、一室の寝台がダブルベッドだったからだ。

「悠利と僕は住む世界が違うんだなあ・・と思って・・・」

はははは・・・・

悠利は大笑いする。

「ヘンな事言うなあ・・・」

「だって、悠利は公爵家の一族じゃないか。」

「そんなのは名前だけ。今時、公爵も伯爵も無いよ。日本の大名家とか華族とか・・・そういうのと同じさ。」

でも・・・

と智は思う。高貴な気品は隠しきれない。

「気にするなよ。」

悠利は智の隣に座る。

「それにしても、やはり・・・妬けるなあ・・・」

「何が?」

「智とデュークだよ。」

悠利も嫉妬するのか・・・智はぼんやり考えた。

余裕たっぷりの悠利には、嫉妬心もコンプレックスも無いように思われた。

「彼が智を思い続けた時間には勝てないよ」

「僕たちは、これからじゃないか・・・」

そう・・・始まったばかり・・・・

 

明日はユリシーズの墓参に行く。ユリシーズの肉身が眠る場所。

 

「この旅行で僕は、本当にユリシーズを思い出として葬ることが出来る・・・・悠利、誘ってくれてありがとう。」

智は強くなった、そう感じる。悠利はそんな智がたまらなく愛しい。

「日本に帰ったら、再出発だね。」

再び戻る事の無い時間達を、一瞬一秒も無駄にしたくなかった。

 

(ユリシーズ、僕は悠利と生きてゆくよ。今だけ、貴方を懐かしむ事を許して。

ここを発てば、もう振り返る事は無いのだから・・・)

 

 

静かに目を閉じて、智はユリシーズにそう告げる。

 

                                                            

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