比翼 3.

 

 

 

次の日、昼食後に、ロレンス卿からの使いの車が来て、悠利と智を連れて彼女のマンションに

むかった。

 

ーわざわざご足労願わなくても、私が息子達を連れて行くつもりでしたのに・・・−

頭を下げる健人に、ロレンスの秘書は笑いかけて言った。

ーいいえ、ロレンス卿は、ユリシーズ様とサトル。2人だけをお召しなのでー

背の高い30前の眼鏡をかけた若い男・・・名前はリチャードと名乗っていた。

ブラウンの髪、ブラウンの瞳、優しげな物腰に鋭さを隠した美丈夫。

 

 

「ロレンス卿、ユリシーズ様とサトルをお連れ致しました」

セレスティア邸に比べれば小さな住まいだが、かなり豪華なマンションの一室に3人は入る。

リビングのソファーに腰掛けて、コーヒーを飲むロレンス卿は3人を振り返り立ち上がった

「ようこそ、席に着きなさい。飲み物は何がいい?」

私服の彼女は、タイトなワンピースを着ていた。夕べの男装の麗人が、今は魅力的な貴婦人に見える・・・

「リチャードお手製のレモンスカッシュを。智も同じでいいね」

悠利は思いのほか堂々としている。智はぎこちなく頷く。

リチャードはキッチンに入り飲み物を準備し始める

「ユーリ、お前には先に言っておくよ。リチャードと結婚する事にした。」

「おめでとうございます」

「まあ、戸籍なんかどうでもいいんだがな・・・私の家に住み込んでいる秘書だから、

今までは同棲状態だったんだが、孫の顔が見たいと親父様に泣きつかれてな。」

悠利は驚いた。かなり前からロレンス卿がお気に入りの秘書を家に住まわせていることは知っていた。が・・・

2人はかなりあっさりと淡白な対応、で恋人の雰囲気など微塵も感じられなかったのだ。

「どうぞ」

リチャードがレモンスカッシュを運んできた。

実は、彼がロレンス卿の食事も作っている。料理の腕は抜群である。

飲み物を受け取ると悠利はわらって言う

「いい奥方をもらわれますね。ミス・ロレンス」

男女逆転カップルの誕生だ。

「悪かったな・・・で、本題はその事じゃない。彼は・・・ドラゴンズ・ブラッドだ」

え・・・・

智は顔を上げる。

「エンゲージもした。」

彼女が掲げた左手には、クロウリングがはめられていた・・・

「今時、そんなものいるわけないと思ってたんだがな。あったんだ、痣が肩にな。

もちろん知らずに出会って、知らないまま愛した。それも運命かな」

こうして竜の血はセレスティアと何時の時代も関わっていくのだろう・・・・

男っぽいロレンス卿のその表情に かすかに恋する乙女の恥じらいのようなものが垣間見えて、智は彼女がとても愛しく思えた。

「その話は、ここまで。君たちに返すものがあってな。」

リチャードが奥の間から、一枚の額に入った肖像画を持ってきた。

セレスティア邸の大広間にかかっていた デューク・ユリシーズとテリウスの肖像画だった。

「これは・・うちにもありますが・・・」

悠利は意図がつかめずにそう呟いた。

「いや。これは違う。これはあの肖像画よりも、はるか後に描かれた物。そして、

デューク・ユリシーズの自室にかけられていたもの。何か意味があると感じて、私はこれを自宅においていた。」

何が・・・何処が違うと言うのだ・・・・

悠利は目を凝らしてみる。

椅子に腰掛けるユリシーズの後ろに立つ黒髪の少年・・・大広間のものと同じ姿勢である。

が・・・・・

「これは・・・」

悠利は愕然とした。テリウスだと思っていた後ろの少年の髪は短かった。

テリウスの髪は肩にすれるくらいの長さだったが、この絵の少年の髪は襟足を短く切ってある。

よく見れば表情もちがう。テリウスの儚げな面持ちはなく、何処か力強さに満ちていた。

「これは智だ」

 智はまだ訳が判らずにいた。

「どういうことですか・・・僕はこんな絵を画家に描かせた事は無い・・・」

「おそらく大広間の絵を見せて描かせたものだろう。テリウスの絵に手直しさせて。

私も昨日、実際にサトルを見て理解したんだ。この絵の意味を」

(ユリシーズ・・・・)

智の頬を涙が伝う・・・・・

これがユリシーズの智への恋文。

身代わりではない、愛は2つあった。

「デュークはずっと、サトルを思い続けていたんだ。再会を誓いつつ」

ロレンス卿の言葉に悠利も涙する・・・

「だから、これは君たちに返す」

 

 ・・・肖像画に想いを託したまま・・・・もういない遥かな人

 

(ありがとう・・・・ユリシーズ。悠利と幸せになります)

 

肖像画を抱きしめつつ智はそう心で呟く・・・

 

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