比翼 2.

 

 

「ここにおられたのですか・・・御当主のロレンス卿がご到着されました。」

島崎が部屋に来て、そう告げる。

「ロレンス卿?」

智は悠利を見つめる

「デューク・ユリシーズの直属の子孫・・・になるかな。御本家さ」

「じゃあ・・・その人が公爵を継いでいるって事・・」

悠利は頷く。

「屋敷の管理とか、色々維持費が大変みたいだけどね」

そういいつつ、3人は階段を下りてゆく。

1階では広間の奥に人だかりが出来ていた。一人一人が前に出て挨拶をしている・・・

健人と美奈が3人を見つけてやってきた

「智君と美奈嬢も、一緒にご挨拶するから。」

「あの・・・私、英語が・・」

美奈が困った顔をする。そうだ・・・智は今気がつく。

ここは英語圏・・・・

「私も悠利もいるから大丈夫さ」

健人は笑って言う

「智もできるよね・・」

悠利の言葉にやっと気付く・・・

英語の会話が日本語に聞こえるのだ。今まで皆(イギリス人)が日本語を話しているのが不思議だった

そして、何気に、智の日本語が通じている事も・・・

「悠利・・・僕はイギリスの人に何語で話していた?」

「ちゃんと・・・英語で・・」

今思えば・・・ユリシーズと言葉が無理なく交わせていた事も不思議だった・・・

(言語が自然変換する?)

これも龍の血の能力(ちから)なのか・・・

それとも、長老が智を未来に飛ばす時に与えた能力なのか・・・

そんな事を考えているうちに順番はやって来た。

奥の中央に座る当主は、金髪の長い髪を後ろで束ねた碧眼の美青年だった。

黒いフロックコートに身を包み、若いながらも威厳を備えている。

「ケント、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「デューク・ローレンス。ユリシーズと学友のサトル・ノナカ。そして妹のミナでございます」

紹介されて悠利、智、美奈は前にひざまづく

「サトル・・・もしや・・」

「はい。例のドラゴンズ・ブラッドでございます」

健人が頷く。

「面を上げよ。」

智は初めて近くでロレンス卿を見た。

あ・・・・

近くで見るその人は・・・女性だった・・・

「なるほど・・・肖像画に瓜二つだ。エンゲージはしたのか?」

「はい」

「礼をいう。ゆっくりして行け。」

「ありがとうございます」

智は一歩引き下がる。

「ユリシーズ、よくやった。デューク・ユリシーズもお喜びだろう。渡すものがある、明日マンションに来い」

「はい」

凛々しい笑顔で悠利はそう答えた・・・

 

 

 

「驚いた。当主は女性なんだ・・・」

客室のベッドに腰掛けて、智は悠利にそう言った。

「ああ、彼女の本名はフローレンス・セレスティアなんだけど、男勝りで実業家の本家の一人娘。

女の身で爵位を継いだ変り種さ。」

「お兄ちゃん、英語があんなに上手いとは知らなかったわ」

美奈の言葉に苦笑する智。

「そろそろ、部屋に帰れよ。レディーは男の部屋に遅くまでいるもんじゃないぞ〜」

「判ったわよ」

しぶしぶ隣の自室に帰る美奈。

「一緒にいてあげればいいのに。一人で心細いかも・・・」

悠利は気を使う。

「そういえば、美奈は紅一点だね。」

「母は僕が中学生の頃、病気で亡くなっていて、竜崎家は男ばかりになったんだ・・・

女中さんはいるけどね・・でも、いいなあ・・・女の子がいると場が華やかになるよね」

「ただ、煩いだけさ」

一応、英語の堪能な女中を、竜崎家から同行させて、美奈の世話をさせているが、やはり兄が一番の頼りどころなのだ。

「美奈のところに行ってやれよ」

冗談ぽく悠利がささやく

「悠利って案外意地悪だよね」

智が拗ねてそっぽを向く

「僕の寝室に2人っきりでいるのもぎこちない君が、僕と同じ部屋で眠るとはねえ・・・」

くすくすと笑う悠利を、智は睨みつける

「ユリシーズとも、ベッドを並べて寝たことあるんだから!」

「じゃあ、平気だね」

 

灯りを消し、それぞれのベットに横たわると、今日一日の緊張が解けて2人はすぐ深い眠りに落ちた。

 

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