誓い 4.

 

 

 

冬休みが始まると、智はそのほとんどを悠利の家で過ごした。

年末年始には、竜崎家の渡英に同行する事にもなっていた。

セレスティア家の屋敷に再び足を踏み入れる事になるのだ・・・・

 

「智?」

悠利の部屋で落ち着かない智を、悠利は不思議そうに見つめる。

書斎ではなく自室、つまり寝室とも言えるプライベートルームの出入りを、智はエンゲージ以降許されている。

ここは今までは父、健人のみ出入り可能なスペースであった。

「落ち着かないよ・・・書斎じゃ駄目なの?」

テーブルを挟んでソファーに腰掛ける2人・・・・

「別に、ここも書斎も変わらないだろう?」

(変わるよ・・・)

島崎でさえ、ここは立ち入らない。しかも部屋の奥、カーテンの向こうには悠利の寝台が・・・・・

「広くてうっかり忘れそうだけど、ここは寝室じゃないの?」

「ヘンな想像してないか?」

頬杖をついた姿勢で悠利は智を見上げる・・・

「してないっ!!」

焦って叫ぶ智が可愛くて悠利はつい笑ってしまう。

「2人っきりは窮屈か?」

そう訊かれて智は俯く。今までそんな事はなかった・・・ユリシーズにさえ、こんな思いを抱いた事はなかった。

 

「ヘンな感じがする・・緊張してドキドキして・・・」

「リビングに出ようか?」

立ち上がる悠利の腕を、智は急いで捕まえる

「いや、やはり・・・ここにいたい。」

頷いて悠利は、今度は智の隣に腰掛ける。

「じゃあ、ここにいよう」

智の方を見つめる悠利の顔が、だんだん近づいてくる。

それと同時に、智は悠利の両手に顔を挟まれ、横向きにさせられる・・・

セレスティア家の庭の薔薇の香りがした・・・

そして、薔薇の花弁のような優しい唇が頬に触れる

自然に涙が流れた。悲しいわけでも無いのに・・・

その涙を、悠利は唇で拭いつつしかし、なかなか終着点にはたどり着かない

じれた智が、とうとう悠利の首に両腕をかけて思いを果たす。

 

「悠利ってS?」

キスの後ぎこちなく智は、悠利の肩に頭をのせた。

「え?」

わけが判らずにいる悠利を、上目遣いに睨みつける。

「ヘンにじらすよね・・・・」

「ごめん・・・じれてたの知らなくて・・」

え・・・‘

智は悠利を見上げる

(天然なの?)

「それより、エンゲージしたあの日、薔薇園で会おうって言ったのは、何か意味があったの?」

成り行きでエンゲージした場所がバラ園とは出来すぎている。

「留学の話が出てるけど断る事にしたって言いたかったんだ。誰より先に智に。噂が広まって

君の耳に入ったら心配すると思って、話しておこうと思ったんだ。」

「知ってたの?あそこは告白スポットだって?」

「薔薇の下の秘密だろう?だから選んだんだけど・・・まさか一気にエンゲージにたどり着くとは

思わなかったよ。でもよかった。一生に一度の事だから・・・ロマンティックにいきたいからね・・・・」

 

微笑む悠利の笑顔に大人びたものを智は感じた

 

「卒業しても・・・会えるよね?」

「もちろん、いつでもおいで」

繋がっている実感はあっても、それでも傍にいたい、離れていられない・・・

 

「イギリス行き、妹も一緒でごめん・・・」

美奈はあれから見事に立ち直り、今は2年の野球部のエースに血道をあげている。

今回のイギリス行きは 悠利と智の事を知った美奈が口封じの代償として出した条件だった。

「構わないよ、君の妹なんだから大事にしないとね・・・」

「ミーハーな奴なんだ。覚悟しといて」

ははははは・・・

悠利が笑う

「可愛くてたまらないって感じだなあ・・・」

兄弟のいない悠利には羨ましい限りだった。

 

「セレスティア邸は懐かしいだろう?」

「うん。」

もう遠い昔のことのように思える。

智は左腕をまくってみる。傷跡はもう消えてしまって跡形も無い。

ユリシーズを忘れたわけではない。過去のものになっただけ・・・

精一杯彼を愛した、その事に悔いはない。

そして彼を通して悠利に出会った・・・

初めから智にとって、悠利はユリシーズの身代わりなどではなかった。

 

今ならそう言いきれる

 

 

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