「ねえ、お兄ちゃん・・・竜崎先輩、彼女いるの?」
美奈が智の部屋で、勉強中にふと訊いてきた。
「余計な事考えてないで問題解けよ・・・」
数学を教えていた智は、美奈の頭を小突く・・・・・
「もう先輩、卒業しちゃうじゃない?告白しないと、後悔する気がするの・・・・」
卒業・・・・・・・・・・・・・・
考えてもいなかった・・・・悠利が卒業すると、もう図書室で会うことも無くなる。
「お兄ちゃん知らない?」
「さあ・・・・」
「卒業式に、あたって砕ける子多いよ・・・・ふられても、もう顔合わすことも無いから 気まずくないし・・・・」
悠利との関係を斬りたくなかった。繋がっていたかった。
智は左腕をまくり、傷跡を見詰める・・・・・
「お兄ちゃんその傷・・・何時の間に?もしかして・・・リストカット?」
「いや・・・部活で・・・鏃が、かすったんだ・・・」
「弓道部の・・・・気をつけなさいよねえ〜」
姉のような言い草に智は笑う・・・・・・
「何処が好きなんだ?悠利の・・・」
「ハンサムじゃない〜西洋的な魅力というか・・・なんか貴公子風の気品もいいし・・・」
(外見に魅かれているのか。僕は・・・・・悠利の何処に魅かれているのだろう・・・・・)
ユリシーズに似ていたから・・・・・・最初はその面影に魅かれた・・・・・・
しかし・・・彼は、ユリシーズより儚げで、淡い夢のようだった・・・・
過去世界のユリシーズが智にはリアルで、現実世界の悠利が夢のようだとは、驚く事だが。
その淡い夢は智を甘く包んだ・・・・・・長くそこにいてはいけないような気さえする。
「お兄ちゃんは、先輩と何処で知り合ったの?」
「図書室で。ほら、竜についての伝承を調べていて・・・悠利の家に、それ系の本がたくさんあるという事で・・・
借りてきたろう?何時だったか・・・・」
「ああ・・・」
「なあ・・・もし・・・悠利に瓜二つの男が、お前の事、好きだって言ってきたら・・・悠利を諦めて
そいつと付き合うか?」
思いがけない問いに美奈は考え込む・・・・・
「そうねえ・・・そういうのは・・・ありかなあ・・・」
(ありかよ・・・・)
「好きなタイプは一定してるものよ。別れても、結局おんなじタイプの人探しちゃうのと同じかも」
「罪悪感はないか?誰かの代わりに、そいつを愛するのって・・・・」
「代わりじゃないかもよ。きっかけはそうでも、最終的にはその人自身に魅かれたって言う事じゃあないの?」
(そう言いきれるのか・・・・)
「でも・・・・もし・・・自分が相手にとって、そんな存在だったら辛いと思う。てことは・・・
相手にも悪い事なんだね・・・」
深く考えさえしなければいいことなのかも知れない・・・・・
が・・・・・
こんなにもこだわるのは やはり智には悠利は”どうでもいい相手”ではないと言う事・・・・
そして・・・ユリシーズにとっても智は”どうでもいい相手”ではなかった・・・・・
好き・・・愛している・・・そんな感情は、あいまいで掴み所が無いように思える
理由などない・・・気がつけば熱病のように心が囚われている。
美奈のそれは、アイドルの追っかけのようなものなのだろう・・・・
(僕は・・・違う・・・・傍にいたい・・・失いたくない・・・守りたい・・・しかし悠利は僕を受け入れるだろうか?
一度はこの世界を、悠利を捨ててユリシーズのもとへ走った僕を・・・・・・)
あの時の・・・別れ際の彼の顔が脳裏に浮かぶ・・・・・
(僕は・・・彼を哀しませた・・・・どんな面をさげてエンゲージしてくれと言えばいいんだ)
愛するものから拒まれる事の辛さが判るだけに、智は苦しむ・・・・・
それでも・・・・
悠利に逢いたかった・・・・
繋がりを切りたくない・・・・
どうしょうもない想いに智は身悶えしていた・・・・
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