時の迷宮2

 

  

「ねえ、お兄ちゃん・・・竜崎先輩、彼女いるの?」

美奈が智の部屋で、勉強中にふと訊いてきた。

「余計な事考えてないで問題解けよ・・・」

数学を教えていた智は、美奈の頭を小突く・・・・・

「もう先輩、卒業しちゃうじゃない?告白しないと、後悔する気がするの・・・・」

卒業・・・・・・・・・・・・・・

考えてもいなかった・・・・悠利が卒業すると、もう図書室で会うことも無くなる。

「お兄ちゃん知らない?」

「さあ・・・・」

「卒業式に、あたって砕ける子多いよ・・・・ふられても、もう顔合わすことも無いから 気まずくないし・・・・」

悠利との関係を斬りたくなかった。繋がっていたかった。

智は左腕をまくり、傷跡を見詰める・・・・・

「お兄ちゃんその傷・・・何時の間に?もしかして・・・リストカット?」

「いや・・・部活で・・・鏃が、かすったんだ・・・」

「弓道部の・・・・気をつけなさいよねえ〜」

姉のような言い草に智は笑う・・・・・・

「何処が好きなんだ?悠利の・・・」

「ハンサムじゃない〜西洋的な魅力というか・・・なんか貴公子風の気品もいいし・・・」

(外見に魅かれているのか。僕は・・・・・悠利の何処に魅かれているのだろう・・・・・)

ユリシーズに似ていたから・・・・・・最初はその面影に魅かれた・・・・・・

しかし・・・彼は、ユリシーズより儚げで、淡い夢のようだった・・・・

過去世界のユリシーズが智にはリアルで、現実世界の悠利が夢のようだとは、驚く事だが。

その淡い夢は智を甘く包んだ・・・・・・長くそこにいてはいけないような気さえする。

「お兄ちゃんは、先輩と何処で知り合ったの?」

「図書室で。ほら、竜についての伝承を調べていて・・・悠利の家に、それ系の本がたくさんあるという事で・・・

借りてきたろう?何時だったか・・・・」

「ああ・・・」

「なあ・・・もし・・・悠利に瓜二つの男が、お前の事、好きだって言ってきたら・・・悠利を諦めて

 そいつと付き合うか?」

思いがけない問いに美奈は考え込む・・・・・

「そうねえ・・・そういうのは・・・ありかなあ・・・」

(ありかよ・・・・)

「好きなタイプは一定してるものよ。別れても、結局おんなじタイプの人探しちゃうのと同じかも」

「罪悪感はないか?誰かの代わりに、そいつを愛するのって・・・・」

「代わりじゃないかもよ。きっかけはそうでも、最終的にはその人自身に魅かれたって言う事じゃあないの?」

(そう言いきれるのか・・・・)

「でも・・・・もし・・・自分が相手にとって、そんな存在だったら辛いと思う。てことは・・・

相手にも悪い事なんだね・・・」

深く考えさえしなければいいことなのかも知れない・・・・・

が・・・・・

 

こんなにもこだわるのは やはり智には悠利は”どうでもいい相手”ではないと言う事・・・・

そして・・・ユリシーズにとっても智は”どうでもいい相手”ではなかった・・・・・

 

 好き・・・愛している・・・そんな感情は、あいまいで掴み所が無いように思える

理由などない・・・気がつけば熱病のように心が囚われている。

美奈のそれは、アイドルの追っかけのようなものなのだろう・・・・

(僕は・・・違う・・・・傍にいたい・・・失いたくない・・・守りたい・・・しかし悠利は僕を受け入れるだろうか?

一度はこの世界を、悠利を捨ててユリシーズのもとへ走った僕を・・・・・・)

あの時の・・・別れ際の彼の顔が脳裏に浮かぶ・・・・・

(僕は・・・彼を哀しませた・・・・どんな面をさげてエンゲージしてくれと言えばいいんだ)

愛するものから拒まれる事の辛さが判るだけに、智は苦しむ・・・・・

 

 

それでも・・・・

悠利に逢いたかった・・・・

 

 繋がりを切りたくない・・・・

 

どうしょうもない想いに智は身悶えしていた・・・・

 

 

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