時の迷宮 1
智は放課後、無意識に図書室にむかった。
試験勉強のため・・・とは口実で、悠利の面影を求めている事は否定できない。
悠利に会うと辛い・・・しかし・・・会いたい・・・・
ユリシーズを忘れたくなかった。
彼にユリシーズの面影を重ねる事で自分自身を慰めている事に、気付いてはいる。
それは、悠利に対する冒涜になると知っている。
誰かの代わり・・・・
そんな愛情は人を傷つける。
不毛なのだと言い聞かせる・・・・・・しかし・・・辛くてたまらない・・・・・
(ユリシーズも・・・最初、テリウスそっくりの僕を見て、そう感じていたのか?)
しかし・・・ユリシーズは、智をテリウスの代用にはしなかった。
それほど、彼の心は強かった・・・・・・
図書室の戸を開けると、窓際に座って本を読む悠利の姿が見えた。
遠くからそっと見詰める・・・・・・
ユリシーズの持つ、青年の逞しさはまだ現れていない。
騎士の精悍なイメージを持つユリシーズに比べて、彼は貴公子の儚さを持っていた・・・・
しかし、ユリシーズは奥底に、繊細なもろい感情を隠し持っていたように、悠利には奥に秘めた
強さがあった。
運命を受け入れ、立ち向かえる強さ・・・・・・
智はユリシーズの弱さと、悠利の強さ・・・どちらも愛していた。
守りたい人を守れなかった・・・・・・・
哀しい別れの後、再会した竜崎悠利は、智にとっては禁断の果実のように魅力的だった。
気を強く持たなければ、ユリシーズと錯覚して愛してしまいそうになる・・・・
ユリシーズを思いつつ、悠利を愛する事は、いくら彼がユリシーズの転生であるとしても
許されない事だろう・・・・・・
(悠利・・・気付かないで・・・こちらを振り向かないで・・・・)
悠利を見詰めつつ、ユリシーズを懐かしんでいる自分を見られたくは無かった。
ー必ず・・・お前にたどり着く・・・だから・・・−
ー時の最果てで、必ずお前を見つけるよ・・・・−
ユリシーズの声が蘇る・・・・・
悠利の中にユリシーズは生きている・・・・・・・
あの時の、契約の竜の血も彼の中に流れている。
(何故・・・簡単に割り切れないのか。ユリシーズの延長線上に悠利がいると・・・・)
同一視しても罪ではないだろう・・・・・・
(なのに・・・何故・・・・)
ユリシーズも・・・そうだった・・・・
テリウスの影である、智とのエンゲージは、なんら罪ではない・・・
誰かの変わりに他の誰かを求め、愛するのは、この世の日常茶飯事ではないのか?
いちいち罪悪感を感じることではない
そういう、冷たい残酷な愛など、掃いて捨てるほど転がっているではないか・・・・
智の瞳から涙が流れる
(大事だから・・・・・)
どうでもいい相手なら、それも出来よう・・・・・しかし・・・・・・
傷つけたくなかった・・・・・・・
相手が身代わりをどんなに望んでも、そんな卑怯なことはしたくなかった・・・・
(それが・・・ユリシーズ・・・貴方の僕への愛・・・・)
そして2度目の拒絶は・・・・・・・・・
失う事への恐れ・・・・・・・・
(もし・・・僕が・・・ユリシーズを過去のものとして悠利を愛せるのなら、エンゲージは可能だろう・・・・)
しかし・・・・・
その日は来るのだろうか・・・・
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