離別     . 

 

 

 夕食後、智はユリシーズの部屋にやって来た。

「ユーリ・・・」

思いつめた表情が痛々しかった・・・・・・

「入れ・・・」

ユリシーズは智を招き入れ、ソファーに座らせる。

「貴方が帰ることを望むなら、僕がここにいる事が、貴方を苦しめるのなら帰ります。

ただ・・・・僕は、貴方を守る為に、あるものを捧げます・・・それは受け取っていただけますね?」

有無を言わさぬ智の口調に、ユリシーズは言葉をなくす

「これだけは譲れません」

「命・・・とかは無しだぞ」

智は窓辺に歩み寄り、月を仰ぐ・・・・

「おあつらえ向きに満月だ・・・・」

智は灯りを消し、燭台だけの灯りを窓辺に掲げる・・・・・

「何をする気だ・・・」

恐ろしいくらいに冴え冴えとした智の顔が月光に照らされる

「竜の血を・・・・貴方に・・・・」

「血・・・・だと?」

「竜の血をひく僕の血を飲み干せば、少しは貴方の力になれる・・・・」

義兄弟のあかしに、互いの血をすすりあい、契りを結ぶ儀式が無いわけではない・・・・が・・・・

「そんな考えを何処から・・・・」

竜の力が目覚めた智には、自然に方法を探し出す力も備わっているのだろう。

「貴方に僕の力を与え、長い時間の最果てで、再び出会う契約の証とするためです」

ユリシーズの瞳から涙が零れ落ちた・・・・・・

「懐剣を・・・・貸してください」

拒む事など出来ない・・・・・自分の都合で智とのエンゲージを拒む以上は。

ユリシーズは懐から、宝石が埋め込まれた懐剣を取り出すと、智に渡す。

懐剣を受け取り、鞘を抜くと智は、左の手首とひじの中間に刃を当て軽くひく・・・・・・・

しばらくして赤い血が滲んでくる・・・・・・

愛するものを守る為の、竜の血が智の白い肌をつたい、ユリシーズは引き寄せられるようにその肌に

唇を寄せる・・・・・・

愛するものの命の証を一滴たりとも無駄にすまいと、その薔薇のような美しい唇を押し当てる

つたった血をなぞり、傷口にたどり着くと、溢れてくる血を舌で掬い取る。

その微妙な舌の動きに眩暈を感じつつ、智はかろうじて立っていた・・・・

想いを伝える手段はこれしか残されていない。そう思うと、智の瞳から涙が溢れる・・・・・

傷口をいたわるように、そっと触れられる唇は最後の愛情表現。

その何よりも甘美な香気を放っていた・・・・・

 

 

「血は・・・止まったようだ・・・・」

ユリシーズが顔を上げる・・・・

上気した頬と潤んだ瞳が智を襲う・・・・

ポケットからハンカチを取り出し、ユリシーズは智の傷口を縛る。

「痛むか?」

「いいえ・・・」

ユリシーズの舌の感覚が鮮明で、痛みなど感じない・・・・

ふらつく智を抱きとめ、ユリシーズはソファーに座らせる

「貧血か?」

「いいえ」

貧血になるほどの血は流してはいないはず・・・・・

「貴方が、あまりに美しいので眩暈が・・・」

ふっーユリシーズは笑う

「そういう台詞は女に言え・・・・」

そう言って、彼は智の前にかがんで智を抱きしめる・・・・・・

「幸せになれ・・」

「貴方無しでですか?」

ユリシーズ無しで、幸せなどあるはずも無い。

「必ず・・・・お前にたどり着く・・・だから・・・」

(その転生した貴方は、貴方であって貴方ではないのに・・・・)

「今度は・・・・次は幸せになろう・・・・」

(それでいいのですか?本当に・・・)

智の脳裏に悠利の面影が浮かぶ

ユリシーズの転生・・・・しかし、ユリシーズ自身ではない・・・・・

「時の最果てで・・・必ずお前を見つけるよ。だから、許してくれ」

「許すも何も・・・・貴方を憎む事など、僕には出来ません」

別れの時間が来た。時計が12時をうつ。

ゆっくり離れてゆく2人の距離・・・・・

ユリシーズの最後の美しい笑みを、智はその胸に刻んだ・・・・・・・

 

 

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