離別     

 

 

 翌日クイーン・アンジェがお忍びで、セレスティア邸にやって来た。

ユリシーズとの謁見を望まれたので、特別室で内密に会談がなされた・・・

 

「クイーン・アンジェ、この度のご婚礼お祝い申し上げます・・・」

「口上はよろしい。ユリシーズ、この度の事、そなたに肩身の狭い思いをさせてしまって

済みませんでした」

ベールで覆われていて、女王の顔は見えないが、声が深刻さを物語っていた。

「なにか、ありましたか」

「ルミナールの国民13人が行方不明なのです。婚礼の妨害に、アルメニアに入国した

暴徒と思われるものたちなのですが・・・・・」

明らかにセレスティア邸に来た13人である。

「公爵邸に向かったという噂もあったのですが・・・・」

「来ませんでしたよ。昨日は誰も。」

「王室関係のものが首謀者だったそうで・・・もし、彼等が捕まって、誰の差し金でここに送られたのか

白状すれば、フィルバートのここでの立場が悪くなるのです・・・」

ふっー

ユリシーズは笑う・・・・・

(その心配はない。跡形もなく消え去ったのだから・・・・)

「ウチの騎士団で手分けして調査してみましょう」

(適当な理由をつけて死んだ事にしなければ・・・・・)

そう思いつつ、ユリシーズは冷たい声でそう告げる・・・・

「頼みましたよ。こんな面倒な事まで貴方に頼んですみません・・・・」

ゆっくりとクィーンは立ち上がる・・・・・

ユリシーズも立ち上がり、先立ってドアを開ける。

「お気をつけて・・・・」

従者に囲まれてクィーン・アンジェは馬車に乗り、城に帰って行った・・・・・

 

 

「ユーリ・・・あの時のことで、何か困った事でも?」

部屋に帰って来たユリシーズに、智は駆け寄って訊く

「いや、問題ない。所詮、暴徒は無きものにしてしまいたいって事さ・・・」

ソファーに座ると智を見上げる・・・・・

「もう・・・大丈夫か?」

「はい・・・」

微笑んで智は、ユリシーズの向かいに腰掛ける・・・・

「ここにいると、お前は権力に利用される。クィーンがテリィを手に入れたいがために

私とプリンセスを婚約させたように・・・・それも、エンゲージを拒む理由の一つだ・・・」

「貴方は、帰れとしか言わない・・・」

昨夜からその話ばかりである・・・・・・・・

「私の頼みを聞いてくれ」

「それは貴方の為にはならない」

まっすぐ見詰める智の目を、ユリシーズは避ける・・・・

「しかし、これがお前の為。サトル・・・お前は未来から来たといったな。もし、私が転生して

その時代のお前のいる場所にいたなら、そのときは必ずお前とエンゲージしよう。」

もう、何を言ってもユリシーズは決意を変えない。

智の瞳から涙が流れる・・・・・・

「何故・・・そこまで 拒むのですか・・・・・」

「いつか、私の想いが判る日が来るだろう。これだけは確かだ、お前はテリイの代わりなんかじゃあない。」

(この人は、この先一人で総てを背負いつつ生きるのだ・・・愛する者が傍にいないまま・・・・)

自分より、もっと辛いであろうユリシーズの心中を思うと、智は何も言えなくなる

愛しすぎる事は愛さないと同じ・・・自分以上に大事なものを犠牲にするのが何よりも恐ろしい・・・・・・

「きっと、私は壊れてしまったんだろう・・・マスターの資格すらないよ・・・」

寂しく笑うユリシーズが涙でかすんで見える・・・・

「もう泣くな・・・・」

立ち上がって智の横に座るとユリシーズは智を抱きしめる

「・・・泣かせたのは私か・・・・」

優しくて強くて・・・・弱い人・・・・・・そんなユリシーズを愛している・・・

(最後に、僕はこの人に何を残せるのだろう・・・・)

 

 

 

今晩、ここに来るツールはルチアによって封印される・・・・・・

 

 

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