離別     

 

夜・・・セレスティア公爵とルチアは帰ってきた。

「ルミナールの暴徒が家を狙っているという噂だったから、舞踏会をご辞退して帰ってきたのだが・・・

変わりないみたいだな」

「はい。父上、暴徒が入国していると言うのも、単なる噂かも知れません」

笑みを浮かべつつ、ユリシーズは使用人達を見回し、暴徒の事を制した。

「そうか・・・・休むぞ」

立ち去る父に会釈した後、ユリシーズはルチアを見た。

うすうす感づいている彼女は、頷いて夫の後に続く・・・・

ー後でー

その目はそう語っていた・・・・・

 

 

少したって・・・・・

ルチアは紅茶をトレイに載せてユリシーズの部屋に来た。

「サトルが倒れて、そのまま目覚めないのです・・・・」

ユリシーズは奥の寝室を指した・・・・・

「力を・・・・使ったのですか?」

「はい。実はそのことで・・・・」

トレイをテーブルに置くと、彼女は奥の寝室に場を移した・・・・・・

 

「来たのですね暴徒が・・・本当は。」

「はい。12.3人くらいでした・・・・」

「サトルが・・・力を?」

ユリシーズはため息をつく・・・・・

「跡形も残らず・・・・消しました・・・・・」

「暴走して力を使い果たして、気を失ったと?」

「はい」

頷いてルチアは、寝室から個室に移動し、持ってきたポットからカップに紅茶を注ぐ・・・・・

「若様、エンゲージしてください・・・・」

差し出されたカップを受け取りつつ ユリシーズは首を振る・・・・・

「彼を元の世界に帰します。時空を封印していただきたいのです」

「若様!」

「この世界は危険です。たとえエンゲージして力の調節が出来たとしても、寿命を削っている事に

変わりはないのです・・・・・」

ルチアはユリシーズを見詰める。

「それが・・・・竜の血を受け継いだ者の宿命・・・・」

何故・・・テリウスも智もそのような宿命を負うのか。

ユリシーズはやりきれない・・・・・

「元の世界は、戦もない平和な世界だそうです。そこでマスターを探した方がいいのでは・・・・」

ルチアはユリシーズの手を取る・・・・・

「従者に情をかけてはいけません」

「しかし・・・私はサトルを・・・・・」

愛してしまった・・・・・・・・

ユリシーズの決意の強さを知り、ルチアはため息とともに頷く・・・・・

「判りました。明日の夜に・・・サトルを説得しておいてください。」

力なく立ち去るルチアの後姿を見つつ、ユリシーズは苦しさに耐えていた。

 

 

好きで手放すわけではない・・・・・

しかし、もうこれ以上は限界だ・・・・・・

 

窓から見える月は、眠る智の横顔を映し出す。

 

そっと・・・・そっと・・・・・ユリシーズは智に口づける・・・・

それは、声に出す事のない愛の告白・・・・月だけが知るユリシーズの想い・・・・

流れた涙が頬をつたい智の頬に落ちる。

 

 

そして・・・・・

 

 

しばしの刹那の情熱を振り切るように、ユリシーズは顔を上げ想いを封印した

 

 

(もう・・・・・終わった・・・・・・)

 

決意した彼の横顔を、蒼い月が照らしていた・・・・・・・・

 

 

           

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