離別                                                                    

                                 

 

 

迷いを振り切るようにユリシーズは任務に没頭した。

  その姿を傍で見ている智は、更に胸を痛めたが、しかし、そんな彼を置いて去ることも出来ずにいた。  

(僕の存在がユーリを苦しめているのだろうか・・・)

 竜の血が目覚めた今の智ならわかる。  

ユリシーズの「お前を愛していない」というその言葉は嘘だと。

テリウスのときも、彼は一度は犠牲にする行為を拒んだ。

しかし・・・テリウスを手放す事ができないまま契約に甘んじた。

今は・・・・・・

自分を犠牲にして、智を送ろうとしている。それは哀しい、しかし強い愛である。

愛するものに向けられた刃を、代わりに素手で受け取ろうとしている。

そんなユリシーズを捨てて、現世に帰れるだろうか・・・・・・・

どちらにしても、もう彼は誰かとエンゲージしなければ生きる道はないのだ。

戻ったとしても、現世でマスターを探すしかない。

なのにユリシーズはただ、駄々っ子のように智を拒む・・・・・・

 ユリシーズの傍にいても、彼は智を避けていた。

 

「こうして乗馬服で馬に乗っている姿はテリウスそっくりだ。」

ヘンリーはそう言って馬で近づいてきた

「しかし、団長がお前を見る目は、テリウスを見るそれとは違う。」

そういいつつ、向こうで指示しているユリシーズを見詰める。

「どういう風に・・・違うのですか」

「哀しい・・・切ない目をされる・・・お前と出会って、あの方は弱くなられた・・・」

「僕のせいですか?」

「愛とは・・・そういうものなのだ・・・」

ヘンリーは智を見て笑う。

「僕は・・・あの方の傍にいてはいけないのですか・・・・」

智はヘンリーを見詰め返す

「いて欲しい・・・・できれば。しかし、どちらにしても団長は苦しむだろう」

二度と愛するものを自分の為に失いたくない・・・・・その思いはあまりに強い・・・・

「答えのない迷路・・・・・」

智はつぶやく・・・・

愛するものを守る事さえ、その人を苦しめる事になると言うのか・・・・・

蹄の音と共にユリシーズが現れた。

「今日はここまでだ。明日、宜しく頼む」

ヘンリーにそう告げると、ユリシーズは智を見た・・・・・

「帰るぞ」

 

 

無言で屋敷に帰り、馬を厩につなぎ、部屋に向かう

「ユーリ・・・・怒っているのですか?」

たまりかねて、智はユリシーズの腕を掴む。

「いいや・・・・もういい。」

「貴方が拒んでも、どうせ僕は他のマスターに付く事になります」

犠牲になるのは避けられない・・・・・・・

「入れ・・・・」

ユリシーズは部屋の前でドアを開け、智を促す

 

昨日と同じくソファーに向かい合って座る二人

「お前の・・・元の世界は、未来の世界なのだろう?」

「はい。」

「戦はあるのか?」

「ありません・・・・」

「ここよりは安全だろう?」

何が言いたいのかが判る・・・・・智はため息をつく・・・・

「そこでマスターを探す方がいいと思う」

「僕の気持ちを、無視するのですね・・・」

「お前は、私の気持ちを無視するではないか」

無視してなどいない・・・・・・

判る。今なら・・・・・ユリシーズは嘘をついている・・・・

「私には、やはりテリィしかいない。それが判った、だから・・・・」

苦しい嘘・・・・

「貴方を苦しめているのが僕なのですか・・・・」

智を見ていると、昔の自分を見るようだとユリシーズは思った・・・・

今、あの時のテリウスの気持ちがわかる。

相手の為に、相手を拒むその行為の尊さを・・・・

しかし、今の智にはわからないだろう。

あの時のユリシーズが理解できなかったように・・・・・・

「貴方は・・・僕を・・・求めている・・・」

まっすぐな智の瞳・・・

(そうかもしれない・・・・・・いや・・・そうだ・・・)

何も考えずに、智を手に入れてしまえば・・・・彼の保護下にいればどれだけ幸せだろうか・・・・・

しかし・・・・テリウスの時のように失くしてしまったら、その後悔は計り知れない。

「私は・・・臆病なんだよ・・・」

責任のある立場、繊細な心、危険に晒される位置・・・・

総てが邪魔をする・・・・・否、最大の障害は愛という名の自己犠牲

「明日の行事がひと段落したら話し合おう・・・・」

答えの出ない迷路を彼も彷徨っていた・・・・・

 

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