選択  

 

 

 午後の日差しの中、ユリシーズは薔薇園の中に佇む智を見て立ち止まる・・・・・

(テリウス・・・・)

彼の中にテリウスを見るうちは、やはり駄目なのだとユリシーズは、額に手を当てて首を振る。

「ユーリ!」

智がこちらを見て叫ぶ。

「あなたの部屋に飾ろうと、薔薇を摘んでいたんです」

向かい合う二人の間を花弁が舞う

「お前が・・・・テリィに似てさえいなければ・・・・」

「似てさえいなければ、あなたは僕を愛せたんですか・・・」

それは言い訳かもしれない。本当は・・自分でブレーキをかけている。

「何を恐れているんですか?」

本当はユリシーズの中で、テリウスが消えつつある。それを消すまいとしている自分がいる・・・・

智はテリウスのように哀しい目をしてはいない。

智はテリウスと違い、ユリシーズの中に踏み込んでくる・・・

「お前が・・・怖い・・・」

「僕が?」

気を赦すと心、総て奪われそうだった・・・

「甘えてしまいそうになる」

「甘えたらいいではないですか・・・」

しかし、ユリシーズはそういうことには慣れていなかった。

「両親にも甘えてこなかったんですか?」

「公爵家の嫡子だからなあ・・・」

ユリシ−ズの中の孤独の影はそれだったのか・・・と智は思う。

「待ちますよ。そう決めたんだ。」

そういいつつ、薔薇を手折る智の手元を見て、ユリシーズは目を疑った

智の指が触れたとたん薔薇はかすかに開花した・・・・・

(竜の血が目覚めている・・・・マスター無しで・・・・)

エンゲージ無しで能力(ちから)を出したという事は、エンゲージを急ぐしかない・・・

方向性の無いまま能力(ちから)を育てるのは危険だ・・・・

(・・・・テリウスもそうだった・・・・エンゲージを急がれているのに、私が拒んだ為に

他の者とのエンゲージを強いられていた)

ユリシーズは自らを嘲笑った。

何かの後押しが無ければ前に進めない。そんな自分に気付く・・・・

「サトル、考えた方がいいぞ。私は意気地なしの優柔不断なヤツらしいからなあ・・・」

にこっー

智は微笑んだ

テリウスには無かった表情だ

「だから僕が傍にいるんじゃないですか」

「向こうの世界を捨てられるのか?」

考えてもいなかった・・・・

ユリシーズを選べば智は、野中智としての学生生活や両親、妹と決別しなければならない・・・・・

 「でも僕はもともと、ここの世界の者ですから」

「未練は無いのか?よく考えろ」

 

そういってユリシーズは立ち去る・・・

 

(未練・・・・・・)

無いと言えば嘘になる・・・・・

何故、このような複雑な事をしてくれたのか・・・・長老に訊きたい気分だった・・・・・

 

 

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