放浪の魂           

 

 

 

王宮での剣術訓練中に、ユリシーズは王女に呼び出された。

「テリィ・・・」

訓練中の智を伴い、プリンセスの接客室の扉を開ける。中にはダイナ一人きり・・・・・

ー内密の話−と言われたが、まさに内密らしい。

「ユリシーズ、女王陛下に当てた手紙の内容は、本当なんですか・・・・」

玉座に座ったプリンセスの正面に、ユリシーズと智は跪く

「はい。彼は、軍の混乱を防ぐ為に一時的に、テリウスの身代わりを依頼した者。」

ユリシーズの言葉に、ダイナはこらえていた涙が溢れた・・・・・・

「プリンセス・ダイナ・・・・御胸中お察し申し上げます・・・・」

「母上は・・・・突然、ルミナール王国の第3王子を婿に迎えるとおっしゃるのです」

ユリシーズは驚きはしなかった。こうなる事と予想していた・・・・・

「おめでとうございます」

「婚約者に言う言葉ですか?それが・・・」

政略結婚に疲れたダイナは、うつろな目をしてつぶやく。

「私のような者より、プリンス・フィルバートの方が貴方に相応しい」

取り立てて美男と言うわけではないが、人当たりのいい善良な王子である。

「どうでもよかったんでしょう?私のことなど」

(それはお互い様・・・)

とユリシーズは思う

「私を本当に愛してくれる人はいない。私が愛した人も、もういない・・・・」

「貴族に生まれて、自分の望む人と結婚するものは、皆無ではありませんか。王室ならなおさら。

そういうものです。」

冷めたユリシーズの言葉にダイナはため息をつく・・・・・・

「お幸せに・・・・」

「ねえ・・・・」

ダイナは顔を上げる・・・・

「彼を・・・私の護衛につけていいかしら?」

智に向けられた目が、テリウスの面影を追っていた・・・・・

「お言葉ですが、彼をテリウスの身代わりにするのはおやめください。」

冷たいユリシーズの言葉に、ダイナは気分を害する。

「何故!貴方は彼を・・・テリウスの変わりに傍に置いているではないの?」

「だから、判るのです。彼はテリウスの代わりではないということが。彼は自分の国に

いずれは帰る身・・・・お許しを。」

ユリシーズは立ち上がり、一礼をして立ち去る・・・・・智もその後を追う・・・・・

 

「ユーリ・・・・・」

怒りを顕にした後姿に、不安を覚える智・・・・・

「どいつもコイツも・・・・・どうしてお前をテリィの代わりにしようとするのだ。」

それは・・・・よくあること。智はそう思う

しかし、ユリシーズには赦せないのだ・・・・

それが愛されている証拠・・・・ルチアはそう言う・・・・・

しかし、智はいっそ身代わりになりたかった。プライドもくそもないくらい・・・・・

「ユーリ!」

智は早足でユリシーズに追いつき、腕を掴んだ。

「では何故・・・僕を傍に置いておくのですか?」

振返ったユリシーズの瞳が怯えていた・・・・・・・

「僕は何なんですか!」

「お前は・・・・・サトル。私の・・・理解者だったはず・・・」

「僕がテリウスに見えますか?」

「いや・・・・」

「なら、いいではないですか。何を怯えているんです?貴方が僕に関心を持ったとしても

テリウスとは関係ない。」

初めて見る強気な智に、ユリシーズは戸惑う・・・・・・・・

「僕は貴方に初めて会ったその時に、すでに貴方を守りたいと思った。自分の使命も運命も

知らないうちから・・・・・エンゲージの申し込みは僕の意志です。テリウスは関係ありません。

貴方はテリウスの亡霊から抜け出せないだけなんです」

 ユリシーズは目を逸らすと腕を振り払った。

「頭でわかっていても・・・・どうにもならん事はある。勘弁してくれ・・・・」

 

自分の前を歩く孤独な後姿・・・・・・

心さえ思い通りにならないユリシーズの焦り・・・・・安息する事は赦されないかのように、

彼は自分を追い込む・・・・・

だからなおさら・・・・智は彼の安息所でありたいと思うのだ・・・・・・・

 

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