放浪の魂          

 

 

 

その夜、ルチアが智の部屋を訪ねてきた・・・・・

「少しお話したいのですが・・・・」

母だと言われているその人を、智は不思議な思いで見詰めた。

 

「いきなり私の息子だとか、テリウスの双子の弟だとか言われて、驚いたでしょう?」

部屋に入りソファーに腰掛けると、ルチアはそう切り出した。

「今まで僕を育ててくれた人は・・・・両親と思っていた人は、偽者なんですか?」

「ドラゴンズ・ブラッドは時を操ります。おそらく長老は貴方を生まれる前の胎児の状態にして

違う時代に送り込んだと思われます」

「では、僕は元の世界の母の胎を通して、もう一度生まれたのですか・・・・」

「それが可能であると言う事でしかありません・・・真実はご本人に訊いてみなければ」

あの占い師の老婆が長老に違いなかった・・・・・

「サトル・・・と呼ぶしかないようですね。サトル、若様はエンゲージなさらないようね。

貴方はどう思っていますか?」

智は首を振る・・・・

「判りません・・・・私をテリウスの代わりには出来ないと仰せです。」

「そう。でもそれは、若様が貴方に魅かれている証拠・・・・」

智は言葉の意味が理解できない。

「貴方を大事に思っているから、もちろんテリウスのこともだけど・・・本当はとても魅かれているのに

自制しておられるのかもしれない・・・・」

(そんなはずは・・・・)

「ないというの?」

(え?)

「ごめんなさい。読心術、私に備わった竜の力なの・・・」

「では・・・ユーリの心も・・・・」

「読めるわ・・・あの方はテリィでないサトル、貴方に魅かれている。でも気づいていない・・・・・

仕方ないわね。貴方はテリウスに瓜二つなのだから。それに信じたくないのかも。

自分がテリウス以外の誰かに惹かれるなんて・・・・」

 「僕は・・・どうすれば・・」

「あの方が気づくまで待ってあげて・・・」

(待てと言うなら待てるけど・・・・)

「貴方も、よく吟味してみて。若様への想いは、テリウスから受け継いだものなのか

自分から沸き出でたものなのか・・・・」

「やはり・・・双子なので、僕はテリウスの総てを受け継いでいるのですね」

「そうね・・・」

ルチアは立ち上がる・・・・・

「でも、テリウスと貴方は別の人間。だからよく吟味して欲しいの・・・」

単に運命や使命でエンゲージしてはならない。ルチアはそういいたかったのだと智は思う。

静かに部屋を出行くルチアに、智は思わぬ言葉がこぼれた・・・・

「おやすみなさい・・・・母さん・・・」

一瞬驚いた目をしてルチアは智を見た・・・・・

「ありがとう・・・・・」

懐かしい笑顔だった・・・・・・

智の細胞の一つ一つが、ルチアを母と認識していた。こんなつながりもあるのか・・・と思った。

 

ユリシーズは契りの重さを知っている・・・・

だから唯一無二のテリウスとのエンゲージさえ拒んでいた・・・・・・

誓う方も誓われる方も命がけだと言う事・・・・・

 

公爵家の嫡子たる、騎士たる身分の彼は、それが日常なのかもしれない。

刃を自に向け命がけの制約が彼らの日常・・・・・

 

穏やかな表情でぎりぎりの処を生きている・・・

 

見守ろう・・・・・

そう思う

 

受け入れられようが拒まれようが・・・・・・・・

見守ろう・・・・彼の生き様を・・・・・

 

 

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