すれ違う想い   

 

 

  紅茶のカップをユリシーズは智に差し出す・・・・

「これ飲んで落ち着け。心配するな、あのバロンと言う言葉は最大級の脅し文句なんだから。

うちは公爵家だ。男爵家の者風情がプライベートな部屋に無断で侵入する事自体、

礼儀の無い行為だが、更にその家のものに手をかけたとあっては、

へたすると爵位剥奪なんてことになる・・・・・もちろん、私も普段は爵位など抜きで付き合いたいと

願っているが、ああいう行いは行き過ぎだ・・・」

「つまり、あの時の”バロン”と言う言葉には、公爵家の権限を最大限に利用するという

戦線布告の意味がこめられているんですね・・・・」

紅茶を飲みつつ智は一息つく。

「王室から使いが来ていたため、エリックの方は放置気味だったんだろう・・・しかし・・・

あいつだけは気をつけるよう言ってあるのに・・・」

とユリシーズは立ち上がり、窓辺に歩み寄り立ちどまる

「あ・・・それで・・王室からの用って?」

「縁談の事。」

(やはり・・・・)

と智は顔を上げる。

「辞退する事にした。プリンセスのお目当てのテリウスはもういないんだし・・・もともと、こんな縁談は

自尊心が赦さなかったんだ・・・・」

智も頷く・・・・

「でも・・・・テリィが生きていたら・・・すすめてたんですか?縁談・・・・」

「こちらから断ることは出来まい・・・・今回のこともテリィの死を手紙でお伝えしたまでの事

でも多分、断ってくる。ダイナは哀しむだろうなあ・・・・」

「いいんですか・・・ユーリはそれで・・・」

ユリシーズは振りかえって笑う

「私にはテリィしかいないんだ。王女との結婚などに興味は無い」

「でもいずれは・・・誰かと・・・」

ユリシーズはゆっくり近づき智の隣にすわる

「公爵家の血筋の為に・・・結婚する。」

「いいんですか?それで?」

諦めたような笑みを浮かべユリシーズは智を見る・・・・

「好きあって結婚するカップルなど貴族世界では皆無だ。皆、家同士の政略結婚さ。

だから、妾を持つ主人・・・愛人を持つ夫人・・・秩序は乱れてる。この家は幸い

そういうことはないけど。」

「夫婦仲がいいんですねえ・・・」

「最初は好きでなくても、暮らしているうちに愛情が生まれてくる事もあるんだ・・・」

「それ、ユーリの母上の事? ルチアの事?」

「どっちも。どちらも思慮深い優しい女性だから・・・・」

ユリシーズも、継母であるルチアを慕っているらしいことが伺える。

ルチアも正妻と言う立場ながら、ユリシーズを嫡子として立てている・・・

だから上手くいくのだ。この関係は・・・・

「それより、エリックからエンゲージを要求されただろう?これからも気をつけろよ。

あいつは強引なヤツで、何でも力ずくだからなあ・・・・悪いやつじゃないんだが・・・」

(え?悪いヤツじゃないんですか?)

智はきょとんとする・・・・・

「テリィ一筋で、自分のものにしたいと言う一途さがああいう行動に出るんだ・・・」

目が点な智・・・

(それ・・・・充分悪いですけど・・・)

「僕をテリウスの代わりにしようとしたんですね・・・・」

「愚かだ・・・・テリィの代わりなんて何処にもいないんだ・・・身代わりなど見つけても虚しいだけさ」

 自分が拒まれている錯覚に落ちる智・・・・・・

「僕は・・・・テリィの代わりにはなれませんか・・・・」

驚いたようにユリシーズは智を見る

「それは・・・・どういう意味だ?」

「よく・・・わからないんですが・・・僕は・・・貴方を守りたい。テリィの代わりに・・・」

瞳を閉じてユリシーズは長い間沈黙した・・・・・・・・

そして智を見詰めた・・・・

「テリィが、もしそれを望んでいたとして、運命がそのようになっていたとしても、お前

彼の身代わりにするのは、お前を冒涜することになる・・・・

 

それでも・・・・いい・・・智は思った・・・・・・

 

「もしサトル、お前自身を私が愛する事が出来たなら・・・・・エンゲージは可能だ・・・・」

 

確率の低い可能性・・・・・・・・・・

 

智がテリウスの影である以上、ユリシーズは智を見るたびにテリウスを思い出す。

智を智として認識してもらえる事自体、不可能な気がした。

といって、身代わりにしてももらえない。

想いは伝わらないまますれ違う・・・・・・・・

 

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