テリウスの影    

 

 

    セレスティア家のバラ園・・・

「ユーリ・・・・」

テリウスの声がした・・・・・

咲き乱れるバラの中に、佇むユリシーズを見つけて駆け寄ってきた。

「なぜ、エンゲージを拒むのですか?」

「私達は主従ではない。そのような関係は望まない」

黒い髪に黒い瞳・・・神秘的なその姿に、彼は神を見るのだ。

(私にはお前が神だ・・・そのお前をどうして・・・)

「では、私が他の誰かとエンゲージをする事をお望みですか?」

強い風が吹いた・・・・花弁が舞った・・・・

その向こうで、佇むテリウスが幻のように揺らいだ・・・・

「・・・・そんな話が・・・出ているのか・・・・」

「私どもは主人を得てこそ、能力を発揮するのです。力を出す為には・・・・

でも、どうせ誰かの身代わりになって死ぬのなら、あなたの為に命を捧げたい。」

(テリィが・・・・他の誰かとエンゲージを・・・・)

考えても見なかった・・・・・・・

(私の傍から離れてゆくのか・・・・)

耐えられなかった・・・・それだけは・・・・・・

今再び強い風が吹きすさぶ・・・・・・・

舞い散る真紅の花弁の中、ユリシーズはテリウスを抱きしめる。

「行くな・・・何処にも・・・・傍にいてくれ」

「ユーリ・・・・」

テリウスは驚きの声を上げる

「私のことを嫌っていたのではないのですか?」

「何故そう思うのだ・・・幼い頃から実の弟以上に愛情を注いできたはずだ。何故、私の愛を疑う・・・・」

テリウスは少しユリシーズから身を離した。

「でも、今は・・・添い寝も拒んでおいでですし、時折、私を避けるような仕草をなさいます」

ユリシーズの瞳から涙がこぼれた・・・・・

「すまない・・・・時々苦しいのだ。弟以上の想いを持ってしまった・・・それをお前に知られて、

嫌われるのが怖かった・・・」

「私が貴方を嫌う事などありません。出会ったときから、私には貴方しかいなかったのに・・・」

一目で引かれた。神々しいまでの金色の髪・・・吸い込まれるような青い瞳・・・滑らかな白い肌・・・・

憂いを帯びた顔立ちも、気高く誇り高いプライドも・・・自分だけに向けられる優しい眼差しも・・・・・

「私こそがお前を守りたかったのだ・・・・」

テリウスの瞳から涙が溢れた・・・・

「もったいのうございます・・・」

「私のものになれ・・・今ここでエンゲージしよう」

ユリシーズは左手を差し出した・・・・・

テリウスは自分の指からリングを抜き取り、ユリシーズの人差し指にはめ、リングにくちづける・・・

王子が美しい姫に求婚するときのようなシーンだった。

(これで、テリィは私の犠牲を免れることは無い・・・・・しかし・・・)

その代わり・・・・生涯全身全霊をかけて愛し続けると誓う・・・・・・

「お前の命は貰った・・・代わりに私の愛を・・・お前に・・・」

そういってユリシーズはテリウスを抱き寄せ、唇を重ねる・・・・

 

それが・・・・二人の運命・・・・

そして・・・・・・

 

 

 

 

「ユーリ・・・」

目覚めるとそこにテリウスの姿は無く、ベッドに横たわった自分を、心配そうに覗き込む智の姿があった。

「サトル・・・・夢を見ていた・・・テリィの・・・」

起き上がったユリシーズに水差しの水を、コップに注いで差し出す。

「驚きました・・・突然倒れて、そのまま意識不明なんですから・・・・」

コップを受け取ると、彼は一気に飲み干し、ため息をついた。

「やはり・・・お前とはエンゲージしないよ。私はテリィ一人だけのもの。一生、死ぬまで・・・・」

冴えた、氷のような美しい眼差しでユリシーズはそう言った。

 

それは智の胸に深く突き刺さった・・・・・・・・

 

 

    TOP    NEXT 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system