テリウスの影      

 

 

  ユリシーズの屋敷で智は セレスティア公爵とルチア夫人に帰還の挨拶をし、

更に内密にルチア夫人をユリシーズの部屋に呼んだ。

 

「すみません。母上。わざわざお越しいただいて」

ルチアは黒髪で、東洋系の神秘的な30半ばの優しげな女性だった。

「若様、お気になさらないで。それより、お父上に内緒のお話とは・・・」

「テリウスのことですが・・・」

彼女は頷いた。

「やはり・・・その事ですか」

「お気付きでしたか」

「母親ですから・・・・それより、その者は一体・・・」

と智を見た・・・・・

「異世界から迷い込んできたというのですが・・・・」

ユリシーズが目配せをすると、智は上着を脱いで脇の痣を見せた・・・・

「不思議な事に、テリィと逆の位置に痣を持っているのです。」

ルチアの瞳から涙がこぼれた・・・・・

「その子は・・・私の息子です・・・・」

智は心臓が飛び出るほど驚く・・・・・

「どういうことですか!」

「テリウスは双子でした。痣の位置が逆の、弟の方は長老様がお隠しになられて、

行方知れずに・・・・・・」

(異世界に飛ばしたのが僕だとでも言うのか?)

智は眉をしかめる・・・・・

「何のために・・・」

ユリシーズは冷静に話を進める・・・

「私の息子達は生まれる前からデューク・ユリシーズに仕える運命でした。テリウスは18で若様の

身代わりに死ぬ運命・・・・その後を弟が引き継ぐ事になっていました。」

「一人の契約者(マスター)が二人のドラゴンズ・ブラッドとエンゲージする事は禁止されているのでは

ないか?」

必ず契約は1対1。生涯かけてのもの・・・・それが掟である・・・

「ですから・・・誰にも知られないところに隠されたのです・・・彼が現れるのは、テリウスが死んだ後」

ユリシーズは頭を抱えて椅子に座り込んだ。

「母上は、この度の戦でテリィが死ぬ事をご存知で彼を送ったのですか?」

「テリウスも・・・知っていました」

ユリシーズは手で顔を覆い泣き出した・・・・

「戦に行かなければ、テリィは死ななかったのではないですか!」

「代わりに若様が・・・・あの子は、だから行ったのです。ありがとうございました。

この子を私にだけ明かしてくださって・・・・」

と彼女は智を抱きしめて泣いた・・・・

「彼の・・名は?」

ユリシーズが顔を上げる・・・・

「ございません。名をつける前に連れ去られました・・・・いえ・・・あってはならなかったのかも知れません。

彼は・・・テリウスの影なのですから」

「では・・・彼ともエンゲージしろとおっしゃるのか?」

「出来れば、しかし・・・それは、この子が決める事」

何がなんだか判らないまま、智抜きで話は進んでゆく・・・・・

ユリシーズは気を取り直して、立ち上がるとルチアに近づくと、ルチアの手を取った

「母上が一番お辛かったでしょう。死ぬと判っているところに息子を送らないといけないとは・・・・・・」

「若様、それが、私どもの使命・・・・セレスティア家は、ドラゴンズ・ブラッドにとっては

第1マスターに当たる家系。お守りできる事自体、光栄中の光栄なのです・・・・」

犠牲になる為に生まれし者・・・・・何故・・・・

ユリシーズは憤る

(私の意志に関係なく運命は動く)

悠久の時間の中で巡る血筋と宿命・・・・・・・

眩暈をおぼえたユリシーズは、その場で倒れた・・・・・・

「ユーリ・・・」

智は急いで彼を抱き起こした。

 

 

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