テリウスの影      

 

                                                

                                                      王国に入ると出迎えの人々でにぎわっていた。

とりわけ、ユリシーズは今回の英雄だった。

彼は一旦、城にて女王陛下に謁見しなければならなかったので、智も一緒に行った。

 

「今回はご苦労様でした。褒美は後ほど充分に取らせます。今日は早々に休息をとりなさい

話はそれからです・・・」

クイーン・アンジェ。40半ばの、際立った美人ではないが品のある女王だ。

「お帰りなさい。無事で何よりでした」

横にいる14歳位の少女が微笑んだ・・・・

華やかなピンクのドレス、茶色の巻き毛・・・・大きな目の愛らしい少女だ。

「あっ・・」

智は息をのむ・・・・妹、美奈に瓜二つなのだ・・・・・・

「テリィ・・・・プリンセス・ダイナだよ・・」

智にそうささやいた後、ユリシーズは王女に向き直り額ずく

「プリンセス・ダイナ・・・・テリウスは、負傷した後遺症で、記憶喪失なのです」

王女の顔が曇る・・・・・

「私のことも・・・・・覚えていないのですか?」

「残念ながら・・・・」

女王はダイナの肩を抱き、ユリシーズに微笑む。

「ゆっくり休みなさい・・・・ユリシーズも・・・テリウスも・・・」

 

 

「プリンセスは・・・テリィを愛しておられた。」

帰りの馬車で、そうユリシーズは言った。

「え?!彼女は・・・ユーリの婚約者だと謁見前に聞かされていたけど・・・・」

「テリィの傍にいるために、私と婚約したのだ・・・」

よくわからない智は眉間にしわを寄せる・・・・・・

「テリィは私の従者だ。私と結婚すれば、ダイナの従者にもなる。テリィとは身分違いで

結ばれる事は無いから、せめて従者として傍に置きたい・・・そういう思いだろう・・・」

まだ幼い王女は、オリエンタルビューティーと言われたテリウスに魅かれていた。

そして、叶わぬ恋はさらに想いを熱くした・・・・・

「テリウスは・・・彼女をどう思っていたのですか・・・・」

「妹のように大切にしていた・・・」

「でも・・ユーリが一番・・・なんですね・・・」

ユリシーズは辛そうに目を伏せた・・・・・

相思相愛のテリィとユリシーズの間に割り込んだプリンセス・ダイナ・・・・・・

報われない恋の道化師・・・・・・・・

「私は、ダイナと結婚する資格などないのだ」

「女王は、それをご存知なのですか・・・・」

ユリシーズは頷く・・・・・

「陛下は・・・・ドラゴンズ・ブラッドを我が物にするため、私を婿に選んだ。総て承知の上で・・・・・

テリィがいないとなると、縁談は無かったものになるかも知れないが・・・・」

どうでもいいような言い方のユリシーズ。

「それより、帰って母上にお会いした時、やはり真実をお話しせねばなるまい・・・・・」

「ああ・・・・」

他の人は騙せても産みの母は騙せまい。

「ややこしい事に巻き込んですまない・・・・」

ユリシーズは智の手を取る・・・・

(貴方のためなら何でもします。だから・・・私をもっと必要としてください)

声にならない、切なる願いを心に秘めて、智はユリシーズを見詰めた

「サトル・・・・テリィを亡くして、私が狂わずにいられるのはお前のお蔭だ」

身代わりでも何でも構わない。ただ・・・ただ・・・・必要とされたかった・・・・・

そして、傍にいたかった・・・・・・

こんな想いが、何処から湧いてくるのかわからないまま、智は馬車に揺られていた・・・・・・

 

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