契約者(マスター) 

 

 

                              朝、目覚めると、ユリシーズが帰国の身支度を済ませていた。

「サトル・・・いやテリィ・・・馬には乗れるのか?」

「乗れませんが・・・」

「じゃあ、相乗りで行こう。帰ったら乗馬の訓練だ」

はあ・・・・・呆然とする智・・・・

とりあえず、テリウスの服を着て、テリウスの荷物を持ち、ユリシーズの馬に乗った。

大勢の騎士の先頭に立つユリシーズと相乗りで・・・・

なれない馬に乗ったため、智は必要以上の力が入った。

「肩の力抜きなさい・・・疲れるから・・」

ユリシーズが何度もそう言った。

 

 しばらく行くと、他の騎士団と合流した。

「あれは・・・」

「フェニックス(火の鳥)騎士団だ。あと・・・ペガサス(天馬)騎士団とも合流するから・・・・」

3つの騎士団の先頭・・・・・智は更に緊張した・・・・・

「団長・・・・相乗り、変わりましょうか?」

後ろの副団長、ヘンリーが声をかけた。

(見栄えが悪いと言う事か・・・・)

智は俯く・・・・・

「いや・・・テリィは本調子ではない・・・私でないと。それに彼は勝利の女神だ。先陣をきって何が悪い」

そう言われては何も言えず、ヘンリーは引き下がる・・・・

 

 

「堂々としろ。」

励ますようにユリシーズはささやく・・・・・しかし、堂々と出来る構図でもない・・・・・

王子様と相乗りのお姫様のような自分・・・・守る方と守られる方逆転している。

 

 

日が暮れ、一行は宿屋に一泊する事となった。

ヘンリーは宿を振り分け奔走している・・・

 

「ユリシーズ・・・手柄だったな。」

フェニックスの団長エリックが近寄ってきた。

「その・・・ドラゴンズ・ブラッドのお蔭か・・・ラッキーだなお前。」

大柄な、褐色の肌のたくましいエリックは、白い歯を見せて皮肉った。

「君が後ろで援護してくれたお蔭だよ。」

にっこり笑ってユリシーズは かわした。

「お先に。」

宿の部屋に入ってゆくユリシーズを、智は追った・・・・

 

「気をつけろ・・・ああいうのがうじゃうじゃいるからな。」

ドアを閉めた後、ユリシーズがつぶやいた。

「ドラゴンズ・ブラッドとのエンゲージ(契約)は、時として妬みの対象になる事もある・・・」

二つあるベッドの一つにユリシーズは倒れこむ。

「お前も疲れたろう・・」

智は、もう一つのベッドに腰掛け、ユリシーズの方を向く

「教えてください。竜の力は・・・どうすれば備わるのですか・・・」

「まず・・・ドラゴンズ・ブラッドである事は必須だ。そして、必ずマスターがいなければならない。

エンゲージして、初めて本来の力が発揮されるのだ」

「ユーリは・・・エンゲージしたのですね・・・」

智の言葉に彼は頷く・・・・

「守りたいものが出来た時、竜の血は本来の力を現す。竜の血とは愛するものを

守る為の力でもある。」

(今の僕には・・・力が無い)

智はベッドに倒れこんだ・・・・・

「サトル・・・誤解するな。テリィの代わりを頼んだのは、周りの混乱を防ぐ為だ・・・

私とのエンゲージは無用だ。」

ズキッー

心が痛んだ・・・・・

恋人に振られたような痛みが智を襲う・・・・

(何故だろう・・・・・)

「お前が元の世界に帰るというなら、遠慮せず行っていいんだ。所詮、身代わりは

時間稼ぎでしかないのだから。テリィはもう何処にもいないのだから・・・・」

智はテリィには、決してなれないのだとユーリは断言した・・・・それが、智の心を引き裂く。

(何故?僕はテリィになりたかったのか?)

何のために・・・・・・・

得体の知れない悲しみに襲われ智は、我知らず涙をこぼした。

「サトル?!どうした?」

ユリシーズは驚いて起き上がった。

「判らないんです・・・どうしてなのか・・・・胸が・・・痛いんです・・・」

しゃくりあげる智に、ユリシーズは毛布をかけ優しく額にくちづけた。

「不安なんだろう・・・知らないところに来て・・・・ゆっくり休め」

そんな彼の優しさが、更に智の心を痛くした・・・・・・

 

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