始まりは突然に    .

 

 

    簡易ベッドをもう一つ持ち込んで、智はユリシーズと同室で休む事になる。

休む前、ベッドに腰掛けてユリシーズと智は向かい合う

あまりの異変に頭が混乱する智に、ユリシーズは笑いかけた。

「心配するな。来たのなら戻れるはずだろう?いつか、もとの国に戻れるさ・・・」

「テリウスは・・・仲間達から慕われているんですねえ」

「あいつは・・・確かに皆から慕われてはいたが、それだけではない。あいつは

ドラゴンズ・ブラッドという名の勝利の女神なんだ・・・」

「勝利の女神?」

「竜の血をひく、竜の眷族なんだ。味方の厄を祓い、有利に事を運ぶ力がある・・・・」

(竜の血・・・・・)

「超能力者とか・・・そういうもの?」

ユリシーズは頷く・・・・・

「その女神がいなくなると皆、戦意を失くす。幸い、この戦は勝った・・・が、これからのことを思うと、

皆不安なんだ・・・だから、混乱を避ける為にも お前に替え玉を頼んだのだ。」

「いずれは判る事ではないですか?」

「ああ・・・・いずれは・・・」

ろうそくの炎がゆれるたび、薄暗がりの中ユリシーズの美しい顔が浮かんでは消える。

「竜の眷族の証のようなものは、あるのですか?」

「薄紅色の花弁の痣・・・そう言われている・・・」

智は目を見開いた・・・・・・

「まさか・・・・」

「どうした?」

智は上着を脱ぎ左腕をあげた。テリウスとは逆の位置に同じ形の痣があった・・・・・・

「サトル!」

ユリシーズも驚いた。

「お前も・・・・・ドラゴンズ・ブラッドなのか?」

「生まれつき、こんな痣があったんです。そして、ここに来る前 ある人から

”貴方は竜の眷族だ”言われ、指輪を渡された・・・・・」

クロウリングを智は見せる。

「テリウスも持っていた・・・同じものを。サトル、お前は何者なのだ?」

「唯の高校生です・・・・」

ユリシーズはため息をつく・・・・

「テリィは・・・・私の一番大切な人なのだ・・・・」

(大切な人?大切な弟でなくて?)

「愛していた・・・・誰よりも・・・」

(え?男同士で?)

「テリウスも・・・ユリシーズの事を?」

「サトル・・・・ユーリと呼べ。バレたら困る」

「じゃあ、ユーリも・・サトルはやめないと・・・・」

ああー・・・・・

ユリシーズは笑った・・・・どうもテリウスで無い者に、テリィとは呼びたくないらしい。

「テリィは・・・死ぬまで 自分は、私の僕の位置から離れることは無いと言った・・・・

愛を受ける価値が自分に無いと・・・・・」

「彼は本当に、ユーリを愛していたんですね・・・」

「しかし・・・私は・・・・」

身分違いの恋・・・・・だから身を引いたのだ・・・・・

「私のためなら、死ぬ事さえ恐れないと言ったテリィは、本当に私を庇って死んでしまった・・・・・・」

左手で顔を覆い、ユリシーズは哀しげに泣いた・・・・・・

(彼は、本当に性別を越えてテリウスを愛していたのだ・・・・)

今まで張り詰めていた糸がプツリと切れたように、涙がとどめなく溢れた・・・・・

智は思わずユリシーズを抱きしめた。

もう、この麗人が泣くのを見たくは無かった

智の背にまわされたユリシーズの腕を、智は不思議な気持ちで受け止めていた・・・・・

 

 

(この人を守りたい・・・・)

 

 

智も、そんな気持ちになっていた・・・・・

 

 

ただの高校生の智が・・・・・騎士団の団長を・・・守りたいと・・・・

 

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