始まりは突然に    .  

 

 

野中智はいきなり占い師に呼び止められた。

妹に連れられて、学校の帰りに来た某百貨店の占いコーナーでの事である・・・・・・

「貴方は竜の眷属・・・竜の血を引く者・・・」

智の右手を取って手相を観つつそう言う。

若者でにぎわうこのコーナーで占い師も若手が多い中、この占い師は珍しく老婆だった。

老婆は智の左手の中指に、懐から取り出した指輪をはめる・・・・・

「これは貴方のもの。お返しいたします。」

「おばあさん・・・・何を言ってるんだか・・よくわからないんですが・・・」

 

「お兄ちゃん!」

妹、美奈に呼ばれて智は振返り、再び老婆を見たが・・・・いない・・・・・・

「あれ?・・」

「どしたの?」

「ここに占い師のおばあさんいなかった?」

「ここには・・・いなかったよ。お兄ちゃん一人で立っていたじゃない」

え!?・・・・・・・・・・

指輪を見る・・・・・ある。竜だか鷲だか判らない獣の爪の形のクロウリング・・・・

「あ!これカッコいいじゃん。クロウリング・・・・こんなのお兄ちゃん持ってたの?」

ショートカットの今風女学生、野中美奈。今、高嶺の花に片思い中・・・・・

兄を連れて恋の相談にこの占いコーナーに来ている。

「それより・・・用は済んだのか?」

「うん・・・観てもらった占い師さんが、これをお兄ちゃんにって・・・・」

鞄から何か筒のような物を出した。

「何?」

「お香・・・・マジカルインセンス。私もオマジナイする時こんなの使うよ・・・・」

「!僕は・・・その占い師のとこに行かなかったじゃん?」

「お兄ちゃんをここで待たせて、私一人入ったんだよねえ・・・・でも、その人知っていたの・・・・

”お兄さんと来たでしょう?”って言ったのよ・・・・・そして”これをお兄さんに”って・・・」

「こんなのどうしろというんだ?」

「寝る前に1本焚けって・・・・」

パッケージには”ドラゴンズブラッド”と書かれていた・・・・

(竜の血・・・・・・・)

 

 

 

「まだ悩んでるの?」

夕食後、兄の部屋に辞書を借りに来た美奈は インセンスを前に考えこむ智を発見した。

「あそこの占い師さん達、当たるって有名な人たちばかりなのよ・・・・おにいちゃんの事も占いに出てたんだわ・・・・・」

よく当たる・・・・なおさら気持ち悪い・・・・・

「大丈夫よ〜呪ったりとかしないよ〜あそこの占い師さんたちは。悪い噂 全然聞かないし・・・・

とにかく、1本焚いて寝てみたら?」

と美奈は自室に戻り、香立てを持ってきた。

「貸してあげるから」

と1本取り出し火をつける・・・・・・・・・・

 

「変わった匂いだなあ・・・・」

「うん・・・独特なカンジ・・・・」

しばらくの沈黙の後・・・美奈は思い出したように兄にピシッと人差し指を向ける。

「お兄ちゃん!今日うちのクラスの真沙美ふったでしょう?泣いてたわよ〜」

ああー

昼休みに告られた・・・・・そして、断った。

「お兄ちゃんイケメンでモテるのに、何で彼女いないかなあ・・・・・好きな人いるの?」

「別に・・・興味ねーよ・・・・」

「何で・・・・女に興味ないなんて・・・もしかして・・・」

「またBLとか何とかのネタにするなよ。」

へへー

美奈はぺロッと舌を出す・・・・・・

「でも・・・一旦、誰とでも付き合ってみたら?」

「誰とでもなんて嫌だよ。運命の人を待ってるんだから・・・」

ああ〜あ〜

美奈は首を横に振る

「時代錯誤なロマンティスト・・・・・・バカアニキ・・・おやすみ」

部屋を出てゆく美奈。

智はインセンスの煙を見詰める・・・・・・・・・

(竜の血・・・・・・・・)

 

眩暈がした・・・・・・・

 

そして・・・・・・・・

 

深い眠りに誘われた・・・・・・・・

 

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