大学教授 4

 

 

学食で光輝は服部に声をかけられた。

学舎が離れているので、なかなか会う機会が無く、たまに会うと、お互いに嬉しかったりする。

向かい合って定職を食べていると、幼い頃から知っている”伯父さん”の面影をそこに見つけて

光輝は笑いがこみ上げる・・・

「光輝?」

怪訝な顔の服部に光輝は、いや・・・と再び笑い、ロースカツにフォークを入れる。

「色々あったな・・・って思ってさ・・・今まで・・・・」

服部に対しても色々な感情を通過した。特に馨に関しては、かなり複雑な思いを持ったが・・・

今では元通りの伯父さん。

「お前、今までで一番いい表情してるな・・・教授になる事、抵抗無いのか?」

教授職への嫌悪はおそらく父、光洋に対する嫌悪感から来ていたと思う。

そして、父の七光りといわれる事への嫌悪・・・

光洋の全てを許したわけではないが、今となっては理解は出来る・・・・

人の弱さ、愚かさゆえの過ち・・・そして傷跡・・・全てをいとおしいと思える。

父の元愛人を恋人にしている後ろめたさは、無い訳ではない。

馨を畜生道という罪にに落し入れたという認識・・・罪悪感・・・・

知りつつも、諦めきれず、愛するしかなかった。そして、馨も自分を受け入れてくれた・・・

 「教授職には何の恨みもないさ。あるとしたら、親父だったんだ・・・」

それを知っていたからこそ、光洋は自らの位置を退き、光輝に譲ったのだろう。

「鷹瀬も今月いっぱいで退職か・・・」

もうすでに、立地条件のいい駅前のビルの5階に、英会話塾を光洋は構えて、生徒を募集している。

教授を辞めても半タレントとしてテレビ出演はしており、英会話塾を始めるとテレビで一言言えば

CM効果は最大限に上がる・・・

過去の教え子の中で、能力のあるものをすでに数人ヘッドハンティングしていた。

「鷹瀬って、何やっても器用にこなすよな・・・」

自分に比べると、大雑把で、アバウトで、理論より行動な光洋が、服部は少し羨ましい。

「親父と伯父さんって本当に正反対だなあ・・・・それでよく親友やってたね・・・」

光輝は今更ながらに感心する。

「言うな・・・それ・・・いつも鷹瀬の尻拭い人生歩んでたって、お前、理解してくれるか?」

ああ〜光輝も実父でなければ、すでに縁を切っているところだ。

服部の最大の尻拭いは、馨の心中未遂事件だったろう・・・

「さっさと縁切ればよかったのに・・・」

「だよなあ・・・・」

光輝の言葉に服部は笑う。分岐点は何度かあった・・・のに結局、鷹瀬光洋の義理の兄にまでなってしまった。

それも望んだわけではない。光洋に自分の妹を嫁がせるのだけは避けたかった・・・・のに・・・

「鷹瀬光洋という男は、人を惹き付ける魅力を持っているんだ。皆、敬遠しながらも、あの自由奔放さ

無鉄砲で、強引な人懐っこさに引き込まれてしまう・・・」

「そんなもん?}

光輝の言葉に服部は頷いた。自分もやはり、光洋が好きなのだ。

あの太陽のような明るさ、輝きに憧れていたのだ。

「佐伯が鷹瀬に惚れたとしても、仕方ない事だったんだな・・・・」

え〜光輝は渋い顔をする。それは少し嫉妬してしまいそうだ・・・・

「勘違いするな。鷹瀬より光輝、お前のほうが数倍いい男だから・・・」

そういう付け足したような慰めの言葉は、心が寒いと光輝は感じる。

「本当だぞ?お前は鷹瀬のいいところだけ受け継いだみたいだからな・・・」

現に、馨は光輝の元で幸せに暮らしているではないか・・・・

「佐伯は元気か?」

 「ああ、結構忙しくしてる。参考書の監修とか裏方しながらも、講演会とかやらされてさ・・・」

なんにせよ、仕事があるのは何よりだ・・・と服部は思う。

 ゆくゆくは後継者にと思っていた馨を光洋に無茶苦茶にされて、心中未遂事件で光洋を庇って

事件のもみ消しをしたため、当時、助手だった二ノ宮玲子にさえ去られた服部である・・・・

 もう彼らの成功を祈る事しか出来る事は無い。

 色々あったが、今では万事上手く収まった用でやっと肩の荷が下りた服部・・・

 「まあ、このまま問題無く暮らしてくれ」

そう言って立ち上がると服部は去っていった。

(それは俺も願っているよ・・・)

 苦笑しつつ、光輝も席を立った・・・・

 

「鷹瀬助教授〜」

学食を出て廊下を歩いていると、女子大生達がやってきた。英文科の見慣れた顔もあるが、他の科の生徒と

思われる学生もいた。

「佐伯先生に一目お会いしたいんです、アポイントとっていただけませんか・・・」

佐伯馨のファンらしい・・・・こういうのに関わると後から後からきりが無くなる・・・光輝は心を鬼にする。

「学校内でプライベートな話はしないほうがいいね。それに、そういうお願いはきけないなあ」

え〜〜〜〜女子大生のブーイングが光輝を襲う。

「じゃあ、ある女子大生が君に『アナタの彼氏紹介して欲しいんだけど・・・』とか言ってきたら紹介する?」

「・・・・・・それは・・・嫌ですけど・・・」

ははは・・・・光輝は爽やかに笑った。

「俺もさ、最愛の人をそうやすやすと、人に会わせる気は無いんだ」

 颯爽と立ち去る光輝に見惚れる女学生達・・・・・こんなにしれっと、スマートに惚気られ、返す言葉も無い。

(格好いい!!!)

ますます光輝と馨のカップルに嵌る・・・・・・・

 

 

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