騒動と収拾 2

 

 

翌日からは、光輝が頼んだ新聞、雑誌類が君子から部屋に持ち込まれた。

心配していたほどの悪評は無く、昨日起こった、大女優と映画監督の心中事件で記事はにぎわっていた。

「アレだな・・・」

写真週刊誌を手に、光輝はつぶやく。

「何だよ?」

鷹瀬光輝の声明書を読んでいた馨が、顔を上げる。

「俺達の事、どうでもいいって感じ・・・」

「話題になりたいのか?」

かなり覚悟した割には、拍子抜け・・・その気持ちは解らないでもないが・・・・

「過去の心中未遂事件なんて、興味ねえんだな・・・世間って・・・」

「興味持って欲しくないよ。」

今更、古傷を開かれたくも無い馨は、光輝にあきれる。

「それは、皆が、”今”を生きている証拠なんだ。」

「じゃあ、俺のした事は、自己満足でしかないのか・・・」

光輝が頬杖をついてため息をつく。

馨は、それでいいと思う。少なくとも、光洋は救われたのだから。

「自己満足、上等だ。お前らしくていい。」

「俺は、自分よりも、お前を満足させてやりたいんだけどぉ〜」

年甲斐も無く、もたれかかる光輝に、馨は微笑む。

ここに来てから、いつしか二人は隣に席をとるようになった。

馨のマンションのダイニングでは、向かい合わせに座っていたのに・・・・・

顔は見れないが、肩が触れ合う距離。そしてキスしやすい距離・・・・

「気にするな。すでに大満足だから。」

そこにいてくれるだけで。

「そういう欲の無い事、言うなよ〜」

「欲は・・・あるよ。もう、ここから帰りたくない気分だし。」

しかし、帰らなくてはならない。いつかは。そして事件の後始末をする。

「そうか・・・やり放題の生活にハマっちゃった?」

おいおい・・・・馨は苦笑しつつ、声明書の冊子を閉じる。

「もう、そう長くはいられないな。決着つけないと・・・・」

「だよなあ・・・じゃあ、今のうちに思いっきり、いちゃつこうかあ・・・」

そう言うと、光輝は馨の肩を押してキスをする。

大丈夫・・・たぶん。二人が揺るぎさえしなければ・・・・

馨は、そう確信している。そして、揺るがない自信もある。

「遠回りさせて、すまなかった・・・」

出会ってからここまで、どれだけの歳月が流れた事か・・・

「いや、お前には色々教えられた・・・やっぱ恩師・・・てか?」

「そう思ってるのか?本当に・・・ちったあ敬えよ・・・」

「はいはい、せんせー判りましたー」

しかし、馨自身、光輝の事を教え子とは見れないほどに、光輝は成長していた。

これからも、もっと伸びてゆく若木・・・

どさっ・・もの思いにふけっていた馨は、いきなり押し倒された。

「おい・・・」

「大丈夫・・誰も来ないから・・・」

それは判っている。作家が作業のために使う部屋だ、普通の宿泊客のような干渉はない。

事実、大学生時代、光洋とここで密会し、昼夜関係なく交わっていたのだから。

「そうか・・・」

馨は笑う。

そんな事も、記憶の彼方・・・忘れていた。

「何が、そうか・・なんだ?」

「いや・・こっちの話・・・」

引きずっていない自分を自覚する。

「何?何さあ?」

「何でもない・・・」

笑いつつ、馨は光輝の首筋にくちづける。

「ヤルんだろ?」

「何?その素直さは?」

今までに無く、抵抗しない馨に違和感の光輝は、首をかしげる。

「もう、誰にも、遠慮する事もなく、何事にも囚われないでよくなったから・・・素直に生きていこうかと・・・」

「ああ・・・そう?確かにお前、今まで無理しすぎだったからな。」

総ては光輝のために・・・・

うん・・・馨は頷く。もう無理はすまい。そう自分に言い聞かせた。

「今回の逃避行は、いい充電期間になったよ・・・」

夢が覚めるように、もうすぐこの二人だけの時間も終わる。

でも、変わらず一緒なのだから、恐れはしない。

また、日常が始まり、その日常の中で、ずっと光輝と共に生きてゆくだけ・・・

「何も変わらない、そうだよな・・・」

うん・・・微笑んだ光輝の唇が、馨の唇をふさぐ。

そのために、今回の騒動をわざと起こしたのだから・・・・

少々、不発で不満ではあるが・・・・

「永遠に帰りたくないけど、帰らなくちゃな・・」

「帰っても、俺達は何にも変わらない。だろ?」

ふっ・・・・そう言われればそうだ・・・光輝はうなづいて馨を抱きしめた。

「帰っても、同棲するんなら、ここと全然変わらないよな」

夢のような刹那よりも、現実を光輝と生きてゆきたい。そこに永遠があると思えた。

秘密の関係、蜜会の温床・・・そんな物は使い捨ての幸せだった。

だから・・・・馨は光輝の背に腕を回す。

「もう、離すなよ」

「離れていったのは、お前だっつーの・・・」

あきれた光輝の瞳が笑う。

「もう、離れないから。滅ぶ時は共に滅ぶ事にした」

「そうこないとな〜〜」

こんな簡単な事さえ、馨には出来なかった。

それほどに光輝を愛しすぎていた。

いや・・・・・・・

今も変わらず愛している。むしろ昔よりずっと・・・

自分勝手になれなくて、光輝の自分への愛情に確信が持てなくて、一人で苦しんだ日々が終わっただけ。

共に生きてゆきたいと、そう強く思えるようになった。

「ずっと、傍にいる・・・・」

耳元で聞こえる光輝の声は心地よく、頷いて光輝の胸に顔を埋めた。

 

 

 TOP      NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system