未来への翼 3

 

馨の抜けた穴は大きいけれど、光輝は徐々に、以前以上の輝きを取り戻した。

もう愛を求めて彷徨う事は無い。一つの愛だけを見て進むだけ・・・

そんな光輝を、傍で見守る細川は、佐伯馨の前に敗北するしかなかった。

光輝に本当の愛を教えたのは、佐伯馨だったのだ

しかも、去ってもなお、馨は光洋の中にいる。

 

「もし、いつか佐伯と再会したら・・・お前はどうする?」

放課後の教室でふと、細川は訊いてみる。

「その時は、何があっても離さない。今は仕方なく、あいつを送ったけど、今度は絶対に。」

そのために、今を一生懸命生きる。

迷いの無い、まっすぐな光輝は美しい。細川はそう思う。

しかし、もう、光輝の事は諦めなければならない。

窓から差し込む夕陽を見つめつつ、細川は光輝への思いを封印する。

卒業までの日々を、もてあましつつ、光輝の傍で過ごす数ヶ月は、やはり辛いのだろうか・・・

「それでも、お前に会えて、よかったよ。」

突然の細川の、別れ際のような言葉に 笑いながら光輝は答える。

「お前は、いい奴だよ」

いい奴でなくてもいい。いっそ、悪い奴になりたいと思う。馨のように。

光輝の心を奪い、消え去った、そんな悪い奴になりたかった・・・

「帰ろう」

光輝は立ち上がる。

終わった、何もかも。細川はそう確信する。

 

 

「先生、もっと大きな部屋を借りたらどうですか?」

打ち合わせに来た担当は、馨のワンルームマンションの部屋を見回して言う。

「大きな部屋に一人でいると、不安なんですよ。」

今まで一人だった・・・そしてこれからも・・・

「恋人とかいないんですか?これじゃ、泊まれないでしょう?」

「いませんよ。そんな人。」

自宅と言うより、仕事場・・・そんな感じの部屋。誰かが、自分の部屋に泊まっていった事など無い。

いつも、ここでは一人・・・・それに慣れてしまった。

「そのうち、有名人になれば、先生も大きい家の一つや二つ建てるんじゃないですか?」

笑いながら、原稿をチエックする担当は、馨の孤独を知らない。

実力を認められることは悪くない。が・・・有名人になりたいとは思わない。

今は、ただ、全力を尽くすだけだ・・・

「アシスタント、つけましょうか?」

「いいえ、誰かがいると、気を使って、駄目なんです。」

少しだけ無邪気に微笑んで、馨は窓の外の夕陽を見つめる。太陽はいつも傍にある。いつも自分を照らしている。だから寂しくなどはない。

あの温かい光は、光輝の眼差し・・・

離れていても、いつも身近に感じられる。

(お前がくれた言葉と、眼差しだけで充分だ。俺は思い出だけで、幸せに生きて行ける・・・)

 

「先生・・・ここですが・・」

担当の声で我に返り、原稿に目を落とす。

こんなにすがすがしい気持ちは、久しぶりだった。

 

 

「鷹瀬、今晩飲むか?」

服部が光洋の大学の部屋に顔を出した。

「ああ、ウチに来いよ。」

いつも、ひっきりなしにいた女子大生達は、近頃はいない。

憑き物が落ちたように、晴れ晴れとした光洋の顔が輝いている。

(もう、コイツは迷わないんだろう。)

服部は確信する。

逃げる事も、自分を誤魔化す事もしない。総てから開放されたのだ

 

 

 

 

皆が、新しく一歩を踏み出した。

痛みを乗り越えて・・・・・・

 

 

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