動揺2 

 

次の日・・・馨は光輝を避けているようだった。そして、光輝は逆に、馨を目で追っていた・・・・

「おい光輝、昨日、何かあったのか?お前、変だぞ?」

細川は敏感に察して、指摘してくる。

昨日・・・・

光輝の脳裏に、あの時の感覚が蘇り、自らの唇に思わず手をあてる・・・

厚くも無く、薄くも無い 今までの女子高生達と比べ物にならないほど、柔らかく甘美な馨の唇は、未だに光輝を翻弄している・・・

そんな光輝を見て、細川はますます不安になる。

今まで見た事の無い、憂いと戸惑いの表情を、光輝の中に見てしまった。

「賭けは降りたんだよな。白紙に戻したんだろ?」

細川の尋問に光輝は頷く。

(賭けじゃない・・・もうこれは・・・)

自分は、馨を欲している事に気付いたのだ。それがどのような傷を自らに与えるかも知らずに・・・

 

 

昼休み 廊下で本を抱えて図書室に向かう馨を見かけ、光輝は本を半分取り上げ、並んで歩き出した。

「鷹瀬・・・」

馨は相変わらず、無表情な目を光輝に向ける。

「手伝います」

明るい笑顔でそういいつつ、嬉しそうに歩きながら、ちらり ちらりと馨を垣間見た。

そのまま図書室に入り、本棚の前で、本を背表紙の番号順にしまいながら、光輝は声を落として話しかける。

「先生、昨日はすみませんでした。あのう・・・」

光輝を振り向くことなく、正面を見つめつつ、馨は冷たく言った。

「何かあったのか?」

本棚に囲まれて死角になっている位置で、光輝はあたりを見回しつつささやく。

「キスした事・・・・」

ふっー馨は冷たく笑う。

「あれは、ぶつかっただけだ。俺には何の意味も持たん」

光輝には、今までに無い衝撃をもたらしたキスが、馨には何の意味も持たない・・・・完全な敗北だった。

「なら、許していただけますか?」

俯いた光輝の肩が震えた。

「何も無かったんだから、許すも何も・・・・」

雪の女王・・・・そんな単語が浮かんだ。ブリザードのような馨の表情、そして声・・・

手にした最後の本を、本棚にしまい、馨は立ち去る。

涙が光輝の頬をつたう。何故、涙が溢れてくるのか、自分自身判らない。

切ない・・恋しい・・・誰かを想って泣いた事など、今まで無かった。

(もう・・・諦めなければ・・・)

そう言い聞かせる。

これ以上、冷たくされると壊れてしまいそうだった。

しかし・・・

諦められる自信も無かった。気がつけば馨の姿を追い、馨のことを想う自分がいる・・・

後戻りは出来ない。袋小路に追い込まれた光輝は身悶える。

消す事の出来ない馨の痕が、光輝を苦しめる。手に入れたい・・・と初めて思った。どんな事をしても、この腕に抱きたいと・・・・

毒でも罠でも構わない。馨を手に入れられるなら。悪魔に魂さえ、捧げても悔いはない。

こんな情熱を今まで知らなかった。

何処から、こんな思いが湧いてくるのか判らないまま、光輝はその思いに押し流されていた。

 

 

TOP      NEXT

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system