太陽神 (アポロン) 4

 

あれから光輝の姿を追ってしまう自分を、馨は痛感する。

悩み一つ無い笑顔、総てを手に入れたような奔放さ・・・

あの光に照らされると、自らの闇は深くなる。

 もう関わってはいけない、そう思った。

 

放課後、馨は校門を出たところで、もめている男女の学生を見た。

女生徒はこの近所の女子高の制服を着ていた。

男子生徒は・・・鷹瀬光輝・・・聞くでもなく、会話は聞こえてきた。

 

「わけを話して!突然別れるって、どういうこと?」

「厭きた」

「何それ・・・」

言葉を失う女生徒・・・

「深追いする女は嫌いだから、あっちに行け」

 

その会話は、馨の古傷を、もう一度こじ開けた。

「鷹瀬君!」

女学生を振り切って、光輝は馨の後を追う。

「先生!」

知らぬ振りして立ち去るつもりが、腕をつかまれた。

「今帰り?お茶しない?」

あきれて、しばらく何も言えずにいたが、馨は気を取り直した。

「寄り道しないで帰れ」

つれない馨の言葉に、びくともせず光輝は付きまとう。

「そんな事、言わないでさあ〜」

光輝の人懐っこさが、馨を苛立たせる。

「いつも、あんな事をしているのか?お前は?」

冷たい、氷のような声だった。光輝はその冷たさに一種の快感を覚える。

「相手が、俺を好きになったとたん、冷めるんだ。」

ズキッー 再び馨の古傷が開く。

 

(あの人もそうだった・・・俺があの人を求め始めたとたん 捨てた・・・)

吐き気がする。同じ血が流れている。許せない、決して許せない・・・

「光源氏、周りからそう呼ばれているらしいな」

足早に歩く馨は、前を見据えたまま、そう言い捨てる。

「光源氏の生涯に、果たして本物の恋があったと思うのか?」

すっー

馨の肘から光輝の手が離れた。

前へ前へと歩いて行く古典教師の後姿を、立ち止まって見送る・・・

光輝の不安はずばり、それだった。

過ぎたるは及ばざるがごとし。

誰からも愛されるものは、唯一無二の愛は受けられないのではないか・・・

何故そう思うのかは判らない。が、不安は付きまとう。

光輝の知る愛とは、薄っぺらいものでしかない。賭けで落とした女学生もいるが、今度こそ本命と信じ 交際した女学生もいた。

しかし、結果は同じ・・・

手に入れたとたん輝きを失う。

好き好んで、薄利多売な男女交際をしているわけではない。

ただ・・・

判ってしまう。肌を合わせたとたんに。

自分が相手を愛しているのか、相手が自分を愛しているのか・・・

だから虚しくなる。

それを誤魔化す為に、賭けに興じたりもした。

はるか遠くの馨の後姿を見つめつつ、光輝は言いようの無い不安を抱えていた。

あの古典教師だけが、自分を不安にする・・・

彼が目の前に現れてから、光輝の胸騒ぎが始まった。

何かを感じる。言い知れない何かを・・・

 

 

 

 「よう」

後ろから細川が追いついて、声をかけてきた

「校門の処で、治美が泣いてたぞ。お前だろ?」

(まだあそこにいるのか・・)

ため息混じりに、光輝は細川を振り返る・・・

「佐伯とは何話してたんだ?」

「ナンパしたら、ふられた」

安心したように細川は笑う。

「無理だろ?賭けなんかやめろよ」

そう言って 細川は光輝の肩に腕を掛け、引き寄せる。

「いや」

にっこり笑って、光輝は細川を見つめる。男ながらに魅力的な笑顔だった。

「落としてみせる。俺の事を薄っぺらな奴と嘲笑っているあいつを地に堕とす。本気にさせて捨ててやる」

細川は眉をひそめた。

光輝が、これほどまでにターゲットを意識したのは初めてのことだ。

(まさか・・・)

彼の胸にふと不安がよぎる・・・

 光輝の、馨を見る目に、不吉なものを感じていた・・・

 

 

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