太陽神 −アポロンー 2

 

 3−Bの担任の福田五郎は、クラスの名簿を馨に渡す。

「うちのクラス、顔と名前。覚えておいてくださいね」

50代のベテラン、気さくな父親タイプの数学教師だ。

よりによって、馨は光輝のクラス、3−Bの副担任になってしまったのだ。

「持って帰ってもいいですか?早く覚えたいので・・・」

静かな笑みをたたえ、馨は無感情にそう言った。確かに笑ってはいても、彼は何処か冷めている。

「いいですよ。お先に・・・」

そういい残して、福田は職員室を出て行った。

 

(こんな所で会うなんて・・・)

鷹瀬光輝のページを開けて、馨はため息をつく。

父は鷹瀬光洋(たかせ こうよう)大学教授・・・・・・

(似ていると思った)

忘れかけていた憎悪が再び湧き上がる。

そっと左手の腕時計の、黒いバンドのあたりを右手で庇う・・・・

そして諦めた様に、まだ残業している教師に挨拶して、職員室を出て行く。

 

(何故、忘れさせてくれないのか・・・・)

廊下を歩きつつ、馨は心の中でつぶやく。

 

校庭に出ると、前を平山や、細川たちとじゃれあいながら歩く、光輝の姿が目に入る。

明るい太陽・・・・神をも恐れぬ奔放さで、総てを魅了する、神の御子・・・・

傷一つ無い、美しく強い魂。

(残酷な私の神は、彼を愛している。私は捨てられ、彼は愛を受けている。)

見えない翼を携えて、明るい日差しの中にいる光輝を見るたびに、馨は自らを消してしまいたくなる。

引きちぎられ、もぎ取られた翼・・・・・

心身ともに傷つき、今もなお、苦しむ我が身・・・・

壊したい・・・・壊してしまいたい   そう思わずにはいられない

 

何故、このような出会いをしてしまったのか、馨にもわからない。

6年間、忘れようと努力してきた。

もう涙も枯れ果てて、記憶も薄れた頃、光輝と出会ってしまった・・・・

何故。

彼を見て、なんとも思わない程には、馨の傷は癒えてはいなかった。

今、それが明らかになった。

 

 

ふと、視線を感じて光輝は振り返る。

佐伯馨がこちらを見つめていた。

普段の氷のような冷めた瞳ではなく、切なく悲しげな瞳だった。

何故か全身が震える・・・

(賭けのせいで意識しちまった・・・)

頭を振りつつ細川の方を向く。

 

どんな美少女も、光輝にとっては、ただの獲物だった。

そして、誰よりも冷静に、スマートに恋を演じてきた。

心にも無い言葉を口にしつつ、相手の反応を見ながら 駆け引きをする・・・

いつも心が乱れることはなかった。

別れを切り出す時、相手に泣かれても すがられても、心は冷たく冷えていた。

恋する演技をやめて、仮面を脱いだ光輝の冷たさに皆、唖然とする。

 

ー何故、そんなに変わってしまったの・・・−

ー初めから、お前なんか、愛してなんかなかったんだ・・・−

 

そう、初めから・・・・

 

 

ーあなたは、本気で人を愛した事なんて無いんでしょうー

そう罵られた。

ーそんな事をしていると いつかあなたも同じ目にあって、傷つくわよー

そう呪いの言葉を浴びせられた・・・・

 

(望むところだ)

心から愛せる者に出会う自信が、彼にはなかった。

命さえ捧げても、惜しくないほどの相手に会える確信が無い。

だから彷徨うのだ。

自己暗示で、相手を愛していると信じても、いつかは冷めてしまう。

そんな愛ではなく・・・

生涯忘れる事の出来ないような、唯一を探して彷徨っていた・・・

 

 

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