太陽神(アポロン)1

 

                                                                             その昔、天使は地に堕ち、悪魔となった。

                                                                            かつて、最も神に愛されし者は、神に刃を向け背信者となる・・・・

 

                                                                            そして今、一人の明けの明星が。エデンの園に舞い降りた・・・

 

                                                                  

 

                     桜華学園は、この界隈では有名な男子校である。

幼稚部から、大学までエスカレート式の進学校で、育ちのいい裕福な家の息子達が、のんびりと学園生活を送る まさに、そこはエデンの園であった。

 

「光輝!」

裏庭の木の陰で、煙草を吸う生徒に、細川雄二は声をかける。

 

ー鷹瀬光輝(たかせ こうき)ー

有名大学教授の息子で、何不自由なく皆から愛され、自由奔放に生きている苦労知らずのお坊ちゃん。

優等生タイプではないが、人懐っこい性格から、教師達からも愛されていた。

容姿も 長身で、鍛えられた引き締まった体躯に 精悍な男らしい顔立ちで 有名お嬢様学校の、

美少女達の追っかけが後を絶たない。

よってスキャンダルも多い。

名前の一字の”光”と光源氏をかけて、光の君と噂されていた。

 

「こんな所で一服かよ!見つかるぜ!」

細川雄二は、光輝の幼馴染だ。

大病院の院長の息子で、家も近く、何もかも知り合う仲、悪友である。

「ばーか。便所でコソコソ吸えるかよ〜この俺が!青空の下、新緑を眺めつつの一服が美味いんだぜ」

今まで、思い通りにならない事など何一つ無く、いつも優位に居続けた少年の、自信に満ちた顔は美しかった。

ー太陽神、アポロンのようだー

雄二はそう思った。

この美しい幼馴染を彼は愛していた・・・密かに。

 

「なあ、本当にやるのか?あの賭けを・・・」

昨日、クラスメイト達との何気ない話の中で、新しく配属された、産休の古典教師の事が話題に上がった。

 

 

ー「なあ、産休に来た先公、イケてないか?」

古典担当で、このクラスの副担任の女教師が出産の為、休職となり、代わりに若い男の教師がやって来た。

山田の言葉に皆、挨拶に教壇に立った教師 ー佐伯馨(さいき かおる)ー の姿を思い浮かべる。

中肉中背の、どちらかというと華奢な雰囲気の優男。

銀縁の眼鏡の奥の、切れ長の瞳が涼しげな 物静かな男だった。

「よせよせ、キレーでも男だぜ〜自分とおんなじモンくっつけてる奴に興味持つなよ」

光輝の言葉に山田は大笑いする。

「意外だな〜光輝ってバイだと思ってた」

山田の言葉に、細川は内心焦る。

「バーカ!俺はホモなんかじゃあねえぞ!」

机の上に腰掛けて、クラスメイトを見下ろしつつ、光輝は笑う。

「そうか?お前なら、男でも落とせるんじゃないか?」

平山が意味ありげに笑う。

「ヤローなんか興味ねーよ」

そう言いつつ、光輝は佐伯馨の面影を追っていた。

目が合った瞬間、何かを感じた。それが何なのかは判らないが・・・

「そう言うな。セント・ローザン女学院の学園祭のチケットまわしてやるからよ〜」

セント・ローザン女学院は、有名なカトリックのお嬢様学校だった。

学園祭の出入りは会員制で、生徒の家族でなければ入れない。

平山の妹はまさに、そのセント・ローザン女学院に通っているのだ。

「俺のチケットまわしてやる」

え・・・・

光輝は考え込む。セント・ローザン女学院は、神聖な乙女の花園なのだ。

その辺のオジさんと援助交際している女子高生とは天地の差がある。

一生独身で、マリア様に忠誠を誓う薔薇巫女様という、聖女三姉妹が居ると聞く。

彼女ら以外の生徒達も、男女交際を禁じられている。厳しい校則の中で、清い身を保っているのだ・・・

「まあ・・・お前みたいな遊び人、羊の群れに狼を送り込むようで気が引けるが、難易度からして、

これくらいの報酬はやらないとなあ・・・」

かなりやる気になった光輝は、生徒手帳を取り出し、平山に渡した。

「誓約書、書けよ。」

「マジかよ?」

山田も細川もあきれる。

平山は賭けの内容を、生徒手帳に書き付ける

「夏休み明けまでだぞ。ちゃんと最後までしろよ」

「え?」

「攻めでも受けでもいいから、最後までな。見られたらまずいから詳しくは書かない。

ここに居る奴らが証人だ。いいな」ー

 

ふー

煙草の火を踏み消して、光輝は歩き出す。

「光の君に不可能は無い」

周りからの愛情を一心に受けている光輝。誰もが彼を愛さずにはいられない。

そんな彼が、恋愛ゲームに興じたとしても仕方ない・・・・・

今まで多くの少女達が、光輝にナンパされては、あっさり捨てられている。

恋愛は彼にとってゲームであり、少女達はゲームのチップでしかなかった。

 

 

光輝はまだ、誰かを命がけで愛するという事を知らないでいた。

 

  

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