結納前後  3

 

 

「伊吹、龍之介は?」

哲三が最後の客を帰した後、思い出したように訊いて来た。

「姐さんとデートです」

へ?哲三はあきれる・・・・

「なんや、あいつら。ラブラブやないか・・・」

「結納も近いし・・・色々あるんでしょう?」

余裕の伊吹に再びあきれる

「ええんか?お前」

「ええもなにも、私も時々、姐さんと2人でデートしてますさかい・・・」

「ふ〜ん」

 

噂をすれば帰ってくる2人・・・聡子と龍之介。

「聡子さん、吉原から迎えの車来てるよ・・・」

と奥にいる吉原の運転手を指す哲三・・・・

「ああ、すみません。ほな・・・帰らせてもらいます」

「ご苦労さん。ゆっくりお休み・・・」

「はい、お父さんも、龍之介さんも、伊吹さんも。お疲れ様でした」

会釈して去る聡子・・・・・

 

「デートしてたんやて?」

小声で訊く哲三に龍之介はにっこり笑顔で答える

「はい」

日に日に貫禄を身に付けて行く龍之介に頼もしいやら、申し訳ないやらの哲三である・・・

「ところで、龍さん。新婚旅行ですが・・・ホンマに京都でええんですか?」

島津が愚痴っていたのを聞いた伊吹が確認してくる

「海外ぐらい行け。近すぎじゃ・・・・」

哲三も不満だ

「聡子も、京都好きだといってたし・・・いいんです」

「気にしてるのか?お前らの新婚旅行・・・」

「1度目も2度目も同じ京都。それでいいんです。それ以上も以下もありませんし・・・」

余裕を見せたかと思うと変にこだわる。そんな龍之介が伊吹は心配だった・・・・・

「2泊3日・・・・つうのもなんかなあ・・・」

「すみません。我侭で。」

有無を言わさない強さで言い切られて、何もいえない父、哲三・・・・・

 

 

「伊吹・・」

夜、伊吹の部屋に龍之介が来た・・・・・

「お疲れ様でした。後は・・・7日の結納済ませば一旦ひと段落ですね」

笑顔で迎える伊吹の顔を見ずに、龍之介は部屋に入りベッドに腰掛ける。

「聡子が譲ってくれればくれるほど、聡子に縛られていく気がして怖いよ」

「それは、龍さんの良心の呵責とか、そういうのでしょう?もっと我侭にならはってもええのに・・・」

そうなれないのが、龍之介が龍之介である所以である事は知っているが、そう願わざるを得ない伊吹だった。

「じゃあ、我侭言うぞ。少しの間、抱いててくれ」

龍之介の隣に座ると伊吹は彼を抱きしめた。

「壁に耳アリ・・・忘れたらあきませんよ・・・」

耳元でささやく伊吹に笑いが漏れる・・・・・

「宮沢さんは帰ったよ、さっき。」

「それで・・・来はったんですか?」

「うん」

そういうと、伊吹を押し倒し、胸に顔を埋める。

「しわになりますよ・・・・ワイシャツが・・・」

「しわくちゃにしろ・・・」

「誰がアイロンかけると思てはるんですか」

「伊吹のオカン・・・・」

ふー

ため息とともに龍之介を抱きしめる伊吹・・・・・

こうして充電しないとやってられないのだ

「このまま寝たい・・・・」

「1時間ぐらいやったら・・・・」

「朝まで!」

うたたね程度ならフォローにしようはあるが・・・・・朝までとなると・・・・

「これでも100歩譲ってんだぞ!」

「判ってます・・・」

普通なら、のしかかってキスくらいしている龍之介だ。

「完全防音の書斎つくるかなあ・・・・」

「それでも聴こえるんと違いますか?宮沢の兄さん・・・」

人間扱いされていない宮沢

「2泊3日・・・お前は平気なのか?完全離れ離れなんだぞ!」

「龍さん、私ら・・・互いの修学旅行で3泊4日くらい離れてませんでしたか?」

「そんときと今は違うだろ!いや、あの時も辛かったけど・・・・」

ははははは・・・・・・

この微妙に少年な龍之介が可愛くて、伊吹は肩を揺らして笑う・・・・・

「独りで待つお前はもっと辛いだろ?」

「それは・・・情夫(いろ)の宿命ってヤツですよ」

「南原と浮気するなよ・・・」

「根にもってますねえ・・・ええ加減忘れてください」

伊吹の心臓の音をかすかに聴きつつ、だんだん龍之介は安堵する

伊吹は暖かい・・・・・

「正直・・・お前と離れるの自信ないな・・・」

「離れてても・・・心はいつも一緒です。信じてください」

「うん」

 

正月から3日間気が張っていた龍之介はそのまま、うとうと眠ってしまった・・・・・・

 

 

TOP   NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system