縁談5

 

 

なす術の無い沈黙に耐えかねて、龍之介は手にしていた薔薇を思い出して差し出す。

「遅れましたが・・・どうぞ。」

差し出された紫の薔薇を見て、聡子は少女のように瞳を輝かせた。

「まあ・・・」

「何の花がお好きか判らずに、買うて参りました。」

伊吹の言葉に促されるように聡子は受け取る。

「小さい時からの夢やったんです。男性から紫の薔薇を贈られるのが・・・」

感激して、薔薇を胸に抱く聡子の予想外の反応に戸惑う龍之介・・・・

「なかなか粋なことするなあ・・・若ぼんも・・・」

腕組みで関心の島津

「まあ、若ぼんがええんなら、ここでたまに会うたらええよ。嬢さんは当分この家で暮らさはるさかい。」

え?

同時に島津を見上げる龍之介と伊吹・・・・

「見合いの為に大阪から来られたんやけど、あと何回か会わんと決められへんやろ・・・というか

若ぼんは拒む資格ないと思うけどなあ。結婚前から情夫(いろ)と同棲中の問題ありな男と結婚してくれる人は

めったにおらへんよ・・・」

「兄さん!」

相変わらずの歯に衣着せぬ島津の言葉にあきれる伊吹。

「やはり・・・伊吹も一緒に・・・ですか?」

聡子はにっこり笑う

「龍之介さんの楽なように・・・」

 

 

 

 

「伊吹・・・どう思う?」

マンションに帰るなり龍之介は訊く

「少し変わった人ですが、ええ人と違いますか?」

脱いだ龍之介のスーツをハンガーに掛けて、ドレッサーにしまいつつ、伊吹は笑う

「お袋に似てないか?」

「似てます」

表情の一つ一つ、仕草の一つ一つ、言葉の一つ一つ・・・・・

姐としてのカリスマもある。

「でもなあ、彼女・・・伊吹に惚れてるんじゃないか?」

また見当違いなやきもちがはじまった。

「浮気するなよ・・・」

ははははは・・・・・

大笑いの伊吹・・・

「龍さんは可愛いですねえ・・・・」

セーターとジーンズに着替えた龍之介はベットに座る

「俺の事、ガキ扱いできるのはお前だけだなあ・・・」

伊吹は龍之介の前に立ち、かがんで彼を抱きしめる

「2人だけの時は甘えてええんですよ・・・・しんどいでしょ?いろいろと・・・」

頷いて龍之介は目を閉じる

「ああ・・・・”しんどい”な・・・・」

伊吹は絶対的安息所・・・・そっと伊吹の背に自らの腕をまわす。

「何処にも行くな・・・」

まだ必要としてくれる腕がある・・・・それが伊吹の生きる糧

結婚を龍之介に勧めながらも、内心複雑なのは否定できない。

聡子は紗枝に似ていて、龍之介は我知らず好意を抱いているように見える。

伊吹はこの縁談はまとまると確信している

聡子は姐として立派に立っていくだろう・・・・龍之介を支えて・・・

 

いつか自分は要らなくなってしまうのでは・・・・

そんな不安の中で闘っている。

 

(それが龍さんの幸せなら仕方ない・・・・)

いきなり、龍之介は仰向けにベッドに倒れこみ、一瞬のうちに伊吹を組み敷いた

「変なこと考えてただろう?」

「え?」

「身をひこう・・・とか」

接触していると思考が相手のほうに流れていくものなのか・・・・伊吹は言葉を失う。

「身を引くんじゃなくて・・・奪い取る考え、湧かないのか?」

「嫉妬とか・・・して欲しいんですか?」

「嫉妬されないと、愛されてる実感が湧かないんだ」

昔・・・伊吹は自分が見合いした時の事を思い出す・・・・・

相手が見合いしても、自分が見合いしても、龍之介の駄々っ子は変わらない。

「どんな試練がきても、びくともしない強い愛情でありたいのですが・・」

伊吹の言葉に龍之介は目を細める

「密かにゆれてるくせに・・・・」

「判りますか?」

「舐めるな〜何時までもガキじゃないぞ・・」

(その言い草がガキなんです・・・・・)

ふーーー

自らの胸に顔を埋めてくる龍之介を受け止めつつ、伊吹はため息をつく

「あまりにも近づきすぎたら、離れられなくなりますねえ・・・」

「中毒か?」

「そうそう・・・微少年中毒・・・・」

「じゃあ、離すな。絶対に。死んでも離すな。」

離したくない・・・・そう思う。

離れないように・・・そう願う。

 

腕に抱いたあの時から、その事ばかりを願ってきた・・・・・

 

季節も世代も時代も変わる・・・・そのなかで変わらない愛を信じたい

昔と変わる事のない龍之介の温もりを感じつつ伊吹はそう思った。

 

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