縁談 3
大学のカフェで放課後、島津と約束があり、龍之介はそちらに向かっていた。
秋の気配にふと足を止める・・・・
あれから3度目の秋を迎える・・・・穏やかに静かに暮らした伊吹との2人暮らしも、今回が最後かとため息をつく
「若ぼん・・・」
同じくカフェに向かう島津と出会った。
「講師のついでに若ぼんに話があってなあ・・・」
と2人並んで歩きだす
「縁談の事だろ?」
ははははは・・・・・
「バレてました?さては・・・藤島・・」
「いいよ。信さんの眼鏡にかなった人なら、見合いでも何でもするよ」
「そりゃあ、話早いなあ・・・さすが藤島や。うまいこと説得したか」
そうはいいつつも、島津は心中は複雑だった。龍之介の投げやりな言い方にもひっかかる。
カフェに入り、一旦席に着き、オーダーすると島津は龍之介の顔をじっと見つめた・・・・
「若ぼん、ガキの遊びと違います、組には姐がいるんや。嫁貰うのに抵抗あるんやったら、姐を貰うと思ってください」
彫りの深くなった顔立ちに、相変わらずの大きな目がひときわ目立つ。しかし、昔のくるくるとよく動く瞳ではない
射抜くような眼光が光る刃のような瞳だった。
龍之介は何時しか、日本刀を思わせる刃の目をした男になった。
伊吹の獣の目に比べれば、何処か繊細で冷たい憂いを秘めた目だ。
そして、それは伊吹のそれとは比べ物にならないほど美しくカリスマに満ちていた・・・・
「8代目の義務と割り切るしかなさそうだ」
「それでも忘れんといてください。一人の女の人生が若ぼんの肩にかかってる事を。」
オーダーがきて、しばし2人はコーヒーを飲む・・・・・・
「で・・・見合いの相手は?」
龍之介から切り出した。
「吉原組の次女で・・・吉原聡子。6歳年上で28です。」
見合い用の写真を、島津は出してきた・・・・
「え?」
何処となく雰囲気が紗枝に似ていた・・・・・
「ちょと、歳いってますが。吉原は鬼頭の傘下やし、先方も親が結婚急がせてるようやし・・・姉さん女房のほうが
包容力あってええかと思うてなあ・・・」
「会うけど・・・断られたらしょうがないな」
「来週の日曜に、ワシの作業場に来てください。藤島と一緒に。」
え?
龍之介の眉間にしわが寄る
「藤島にも会いたいそうや。」
「話したのか?」
「いいました・・・皆。情夫(いろ)の事も。それでも見合いしたいて。情夫にも会わしてくれと・・・・」
(一体・・・どんな女なんだ・・・)
「山のような候補者の中で、この嬢さんだけが見合いを受けてくれました。ワシの感覚としては、これで決まりですなあ。
若ぼんは申し分ないし、情夫(いろ)の方も上玉や。何処に出しても恥ずかしない」
ふーーー
龍之介は苦笑する・・・・
「断るつもりで情夫(いろ)ともども顔でも拝んでみよう・・・そんなところだろう」
「そういう人やないよ聡子さんは。若ぼんのこと知るのには、若ぼんを育ててきた藤島を見るのが早道やて、そう言うてなあ」
「信さんの目を信じて会ってみるから。でも結果は期待するな」
「はいはい・・・」
龍之介は立ち上がるとさっさと去っていった
(だんだん・・・藤島に似てくるなあ・・・)
ポーカーフェイスなところや仕草の一つ一つ・・・・
(一緒におると伝染るんかなあ・・・)
微少年ウィルスにやられていたはずの伊吹は、いつの間にか龍之介にコワモテウィルスを伝染していた・・・・・
ただ・・・・島津は案じる・・・
男になると言う事は、弱音を吐けなくなるという事
肩肘張ってぎりぎりの処で生きていくという事・・・・・
素直な感情豊かな龍之介の、男への成長は痛々しくもあった・・・・・
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