縁談 2

 

 

最近部屋にこもる事が増えた伊吹を、龍之介は気にしていた。

(3年たてば倦怠期とか言うけど・・・)

夜一緒にいる事を避けているような気がした・・・

あれから龍之介の背は伊吹と5cmの差まで追いつき、ガッシリとしてはいるが細身を保ち

声もテノールにとどまった。

(今更・・・でかくなったのが気に入らないとか?なんにしてもおかしい・・・何か隠してる・・・)

思い立って龍之介は伊吹の部屋に向かう・・・・

 

「伊吹・・・」

ドアを開けると・・・・テーブルに山積みの見合い写真・・・・

「龍さん・・・」

手にしていた写真を閉じてテーブルにおくと、立ち上がって龍之介を迎える

「何?伊吹・・・見合いするのか?」

「いいえ。私と違います」

と言う事は・・・・・・龍之介は凍りつく・・・

「俺のか?」

だんだん少年らしくなくなってきた龍之介は、二十歳の成人式を越えたくらいから”僕”を辞めた・・・・

異様にアンバランスなのに気付いたのだ。

それと同時に甘えたような口調も変わってきていた・・・・

「はい。卒業と同時に婚約して、1年後に結婚、そのとき8代目襲名となっています」

龍之介はあきれる・・・よくも人の人生を勝手に決めてくれるものだ・・・・

「オヤジがそういってきたのか?」

「はい」

「で・・・お前は平気なのか?」

寂しげに微笑んで伊吹は口を開く

「覚悟の上ですから・・・」

つかつかと龍之介は伊吹に歩み寄り、ぎりぎりまで顔を近づける・・・・

「嫌だって言えよ。誰にも渡したくないって・・・・」

大きな瞳で見詰めてくる、その情熱は少しも変わってはいない・・・・

「言う資格ないですから・・・」

「正気の沙汰か?恋人に女あてがう奴が何処にいる・・・」

それでも伊吹は優しく微笑む・・・・

「女と違います・・・姐さんを・・」

判っている・・・・龍之介自身も判っている。しかし、頭でわかっていてもどうしょうもない

 「もう、伊吹には俺の事なんかどうでもよくなったんじゃないかって・・・そんな気がするから。

だから、何とか言ってくれよ・・・・」

伊吹はふと目を伏せる・・・

「言うても・・・何も変わりません。私が女に生まれ変わって、鬼頭の姐として龍さんを支えていけたら・・・

龍さんに似た鬼頭の跡取りを生んで育てていけたら、いくらそう思っても願っても、それは無理なんですよ」

こらえていた涙が一筋伊吹の頬を伝う・・・・・

(平気なんかじゃない・・・・伊吹は俺より辛いのだ・・・)

自らの涙を隠す為、龍之介は伊吹に口づける・・・・互いの涙が触れ合った頬の上で一つになる・・・

 

「苦しまないでください。何も考えんと結婚してください」

伊吹は龍之介をベッドに座らせる。

「お前が選べ。だれでもいいから・・・」

伊吹はその龍之介の前に跪く・・・・・

「姐さんをないがしろにしたらいけません。大事にすると約束してください。」

「愛せるかどうかは、保障できない。」

「せめて・・・家族として愛してください。結婚相手に、一生愛される事もないままの人生送らせるつもりですか?」

「難しい事、要求するなよ」

「姐さんには、よくしてあげてください」

ふっー

苦笑して龍之介は伊吹の腕を引きベッドに押し倒す

「もし・・・結婚して女の方がよくなって、お前のこと捨てる事もありえるぞ・・」

のしかかってきた龍之介に、伊吹は笑顔で答える・・・

「そうなっても、私は8代目の側近として貴方の傍にいれるのですから、問題ありません」

「バカ・・・」

そういって伊吹の上に倒れこむ龍之介を、伊吹は受け止める・・・・・

「そんなお前の事、捨てられるわけ無いだろう」

(甘えたは相変わらずや・・・・・)

伊吹は苦笑する。

「ええ人に出会ってください・・・」

「そうだな・・人見る目はオヤジや信さんが確かだから・・・任せる・・」

 

 

「なあ・・・伊吹・・」

長い沈黙の後、龍之介は伊吹の胸から顔を上げる

「これからは伊吹はこういうことするな。残り少ない時間をこんな事に使うな」

「済みませんでした・・・ほったらかしてて・・・」

 にっこり笑う伊吹

「俺の部屋に移動する。さあ行くぞ、」

起き上がりドアにむかう龍之介

「え?」

起き上がったものの、意図がつかめない伊吹

「シングルベッドじゃあ狭すぎて、どう考えても無理だ・・・」

「では・・・さっきの沈黙は?」

「ここでこのまま続きをするべきかどうか考えてた・・・」

 言葉遣いは変わっても、なかなか中身は変わらないものだと思う伊吹だった・・・・・

 とにかく、越えなければならない壁が龍之介にはあることだけは確かだ。

 

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