京都旅行 5

 

 

風呂上りは自由行動となり、哲三は龍之介を連れて亭内の茶店で善哉を食べに行く

伊吹は組員に土産の漬物や佃煮を購入する為、売店に、島津と宮沢は部屋でのんびりしていた・・・・

 

「龍之介・・・・信さんも言うてたが、これからだんだん組になれていかなあかん。ぼちぼち、卒業までにはなあ・・」

和風のカフェ風に作られた店内はおしゃれで、くつろげた・・・・

「今度の事で、僕は今まで何にも知らずに過ごしてきた事が身にしみました・・・」

「今まではええんや。やくざの息子やいわれて、肩身の狭い思いしてるのに組のことまで気ぃ使わせとうなかった。

普通に暮らして欲しかった。伊吹も同じ思いやったと思う。ただ、今からは8代目の襲名準備に入って行く。

3年ほどあるけど、あっという間や・・・・」

父親とこんなにじっくり話すのは何年ぶりだろうか・・・・・龍之介は微笑んだ。

「肩身・・・狭くなかったよ。誰も、その事でいじめなかったし。伊吹がいてくれたし。

でも、もう頼るだけじゃあダメなんだね・・・・」

「お前は変わったなあ」

「そう?」

善哉の椀を持ち上げて、龍之介は哲三を見上げた

「情夫(いろ〕が出来ると、変わるもんなんか?」

善哉を食べつつ苦笑する龍之介・・・・

「父さんまで、からかわないでよ・・・」

「おちょくってへん・・・お前にどんな変化が起こったんか知りたいだけや。」

「変化・・・・。安心感とか・・・伊吹に対する責任とか、かなあ」

「信さんが、紗枝と再会した時のワシと、そっくりやと言うとった・・・・」

(母さんと・・・・)

哲三と紗枝は幼馴染みだったが、紗枝は小学校卒業と同時に東京に引っ越していった。

大学を卒業して、就職の為に大阪に戻った紗枝と哲三は再会したのだ。

「ワシと紗枝は結婚した・・・が、お前らは・・・お前らは二人だけで何時までもいられへん。

いつかお前に嫁が来る。それは多分、辛い事やろうなあ・・・・」

いずれ来る試練を思うと心が痛い哲三である。

「特に、お前は今まで伊吹だけ見てきた。今も伊吹しか見えてへん。しかし、組に姐は必要なんや」

「辛くても・・・覚悟してこうなったんです。父さん心配しないで。」

笑顔とは裏腹に胸が張り裂けそうな龍之介だった。

「もうちょっと・・・お前がええ加減な男やったら、よかったのになあ・・・二股とか蛸足なんかなんとも思わんくらいの・・・」

あまりにも一途過ぎる龍之介が心配だった。

「まあ、あの伊吹がお前を育てたんやから、そうはならんわなあ・・・・」

「というか、父さんの血を引いてるからなんじゃあ・・・・」

善哉をたいらげて、緑茶をすすりつつ龍之介はつぶやく・・・・

哲三は自分も純情一途なことに気付いていない

 

 

 

「なあ・・・・与一ちゃん。これでよかったんか?」

縁側に腰掛け、風景を眺めていた島津がつぶやく

「なにがですか?」

緑茶を入れた湯のみを差し出して、宮沢は訊く

「やくざの参謀に納まったこと。元はエリートやったのに・・・・」

「やくざの世界は、私が思う以上に人情的で義理堅い・・・そう教えてくれたのは兄さんでしょう?」

自分の湯のみを取ると宮沢は飲み始める・・・・・

「それに、エリートの業界はめちゃめちゃ醜いと言う事も知ってます。未練なんかありませんよ」

ふふ・・・・

笑い出す島津・・・・

出会った頃の懐かしい面影がふとよぎる・・・・・

「兄さんに出会ったあの頃、予想も出来んかったでしょう?笑い死ぬほど大笑いする私の姿・・・・・」

「ああ」

「笑いのある人生ってええなあ・・・・今、そう思うんです。ほんまに」

宮沢は変わった・・・・・と島津は思う。

哲三の傍で彼は氷の心を徐々にとかして行った・・・・哲三にはそういう才能があった。

「若ぼんと藤島のカップルに感謝せいよ・・・・」

何時までも、今のままの状態ではいられないことは明白だ。だからこそ島津は、今この時を大事にしてやりたいと

龍之介と伊吹に願う・・・・・・・・

 

「晩は皆で騒いで明日は大阪か・・・」

「兄さん。ありがとうございました。この旅行・・・私にとっても一生の思い出です。」

「じっくり話す時間なんてないもんなあ・・・ワシら・・・」

 

それぞれがそれぞれの思いを胸に抱きつつ愛しい日々に思いを馳せていた。

 

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