冬休み 5

 

 

昼過ぎから、伊吹は組の事務室で 南原のし残した事務処理を始めた

「兄さん、すみません。仕事・・・たまってるでしょ?」

「ええよ、南原。若いモンに プリントアウトした住所、年賀状に貼らせろ。あと、お歳暮の手配・・」

山済みになっている組関係の年賀状は、若いモンにあてがわれるべく南原に持ち去られた。

「なるほど。年末は忙しいんだねえ・・・だから伊吹帰ってきたのか」

プリントアウトを続けつつ龍之介は頷く・・・

「南原にも、若頭の仕事慣れささなあきませんなあ・・・雑用っぽいのは下のモンに振り分けてええんですけど・・・」

「伊吹がひとりで、何でもかんでもやりすぎたんだねえ・・・」

「龍さんにも、組のこと慣れてもらいますよ・・・」

「8代目の修行?」

ええ・・・・伊吹は頷く

「僕が8代目になると伊吹は?」

「・・・側近になりますか、若頭は南原、宮沢の兄さんは、そのまま参謀。7代目組長は会長として残らはるかも・・・・」

「ずっと傍にいてくれるんだよね?」

「はい」

少し安心する龍之介・・・・・・

しっかりしないとくじけそうだ。伊吹はよくやってきたとつくづく思う・・・・・

事務室に帰ってきた南原はお歳暮のカタログを片手に電話をかける。

「歳明けるまで戦争ですよ・・・」

   暮れはいつも伊吹が忙しくて構ってもらえなかった思い出がある。

(伊吹はこんなことして忙しかったんだ・・・・・)

今更わかる龍之介・・・・・

 

 

「兄さんのお蔭で、何とか先が見えてきました」

昼食後のコーヒータイム。南原は一息つく

「南原、お前も一人でようやってきたなあ」

「兄さんの大変さがわかってきました」

ふっ・・・・・伊吹は笑う。

「次期若頭やで・・・お前」

「え!!?」

「そうやろ?・・・がんばれや」

横で見ていて、南原のプレッシャーをひしひしと感じる龍之介は何も言えないでいる

「お前やったらできるよ。ポスト藤島伊吹やないか」

そういって笑う伊吹の笑顔が眩しい・・・・・

(舎弟たちにこんな笑顔見せるんだあ・・・・)

龍之介は新しい発見をする。思えば組の中での伊吹をあまり知らない。

今まで、自分と一緒の伊吹が総てだった。これからは組の中で、自分と伊吹が同居するのだ。

「ぼんは無口ですねえ」

南原に言われてはっとする。

「初めてだから、組の事手伝うの。なんか新鮮だねえ・・・」

「ぼんは・・・変わりましたよ」

「そう?」

自分では判らない

「強うならはった・・・・これも兄さんのお蔭なんですか?」

「もともと・・・・資質はあった。虎の子は虎。獅子の子は獅子や。」

伊吹は遠い目をする・・・・・・

とはいえ、ここまでの紆余曲折は一言では語れない。

 

「とにかく・・・・正月までフル回転やなあ」

伊吹は立ち上がる。

「お正月はまた宴会?」

今朝の惨事を思い出して龍之介は顔をしかめる。

元旦から3日くらいは鬼頭系の組の組長が挨拶に来て酒盛り・・・・毎年そうだった

南原は頷く

「恒例ですよねえ?」

「ああ・・・恒例やなあ・・・・」

肩を振るわせて笑いつつ伊吹はつぶやいた

大勢来れば来るほど、他の人たちに伊吹を取られる・・・・・龍之介は昔からそれが面白くなかった・・・・

「・・・・伊吹は・・・結構、宴会好きなんだ」

拗ねたようにつぶやく龍之介に伊吹は笑いを止める。

「社交術ですよ。」

「大人の世界は大変だねえ・・・・」

ため息の龍之介・・・・・伊吹しか見ていなかった自分が子供に思えた・・・

 

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