冬休み 4

 

 

 駅に迎えに来た組の車で、伊吹と龍之介は鬼頭の家に帰った

「お帰りなさい!ぼん、兄さん」

皆に迎えられて組長の部屋に向かう

「組長。ただ今帰りました」

「ああ、入れ。」

部屋には島津と普段顔を見せない宮沢が膳を囲んでいた。

「待っとったんや。一緒に飲もうと思うて・・・」

「はあ・・・」

と横の龍之介を見る・・・・・

「若ぼんも一緒にどうです?酒はアレですけど・・・刺身でも・・・」

酒宴に引き込まれた伊吹と龍之介・・・・

 

「信さんは・・・どうして大阪に?」

「こっちに知り合い多いんでなあ・・・・あちこち回ろうと・・・」

「奥様はお一人で?」

伊吹は杯を受け取りつつ訊く

「ああ。あいつはあいつで友達と京都に旅行に・・・途中まで一緒にきたんやけど」

「寂しくないの?離れてて・・・」

龍之介の問いに島津、哲三、宮沢は笑う・・・・

「新婚とちゃいますさかい・・」

(え???)

「若ぼんは一晩でも離れていられへんでしょうけど・・・・」

痛いところを突かれて苦笑する龍之介

「えらいこっちゃなあ・・・・・一晩どころと違うし」

「兄さん!」

伊吹がいさめる

「てんごは そのへんにしといてください。」

「情夫(いろ)が助け舟だしよるぞ・・・・」

悪い人ではないが島津は冗談が過ぎるのが玉にキズである。

「ここにいるモンは皆お前らの事知ってるから、隠さんでええぞ・・・思う存分のろけろ」

「いやです」

島津に酒を注ぎつつ伊吹は微笑む・・・・

「今日の酒の肴は若ぼんと藤島カップルののろけ話なんや」

(帰ってそうそ、うそれはないでしょう・・・)

笑顔で困り果てる伊吹・・・・

「もうやめ。信さん、嫌がってるやないか」

哲三も助け舟を出した。

「それに、宮沢が笑い死にしたらどうするんや」

その一言で笑い狂う島津・・・・・・・・

「兄さん!」

静かに刺身をつついていた宮沢がいさめる・・・・・

「まあまあ・・・飲め伊吹」

哲三も伊吹に酒を注ぐ・・・・・・

「父さん!そんなに飲ませたら、明日二日酔いになるよ」

龍之介の心配に哲三は笑顔で答える

「明日は一日休ませたる」

「それに藤島は、ちょっとやそっとじゃあつぶれん。昔ワシが鍛えたから・・・なあ?」

 

(もう・・・・・)

酒宴についてゆけない龍之介はため息をつく・・・・・

「若ぼん・・・こういう席にも慣れなあきませんのや。襲名前の予行演習や」

急に真面目な顔で島津がささやくので、龍之介は途方にくれる・・・・

こういう世界に慣れるにはどれだけの修行が必要なのか。

なんだかんだ言いつつ、酒宴になじんでいる伊吹を見詰めつつため息をつく

自分の知らない伊吹の一面を見た気がして・・・・・

 

 

 

次の朝・・・・・・・

酒宴の果てにその場で眠ってしまった4人の姿を、自室から起き出してきた龍之介は目のあたりにした・・・・

(女手がないとこれだからなあ・・・・・・)

オカンの伊吹さえ、ここでは鬼頭組に同化している・・・・

まだ自分の踏み込めない”男”の世界がそこにあるような疎外感を感じた

 

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