冬休み 1

 

 

「あら〜藤島さん!指輪してる〜ペアリングですか?昨日彼女がくれたとか?」

朝いちで金居嬢に見つかってしまった結婚指輪。

「女っ気ないと思ってたら、兄さんやりますねえ。」

井上も茶化してくる・・・・・

「相手どんな人なんですか?」

(井上・・・・いつか、わかるから)

龍之介の指輪が見つかるのも、時間の問題だ。

「それより、12月25日から大阪に帰るから・・・留守宜しく」

「え・・・そうなんですか・・・」

書類整理中の安田女史が振返る・・・・・

「長い事 組の事・・・南原にまかせっきりで、仕事たまってるから片付けて来ます」

「じゃあ、ぼんの冬休みに合わせて帰らはるんですね」

井上も帰りたそうだ・・・・

「今日は俺、半日で上がるから・・・」

「ぼんの迎えですか?ぼんの世話しながら、どうやって女と付き合う時間が作れるのか不思議やなあ・・・・」

(女、女 言うなよ)

井上の言葉にため息で返す伊吹・・・・・・・

「そしたら・・・また明日・・・」

 机の上を片付けて伊吹は立ち上がる。

24時間勤務の世話役の後ろを見送る井上以下数名・・・・・

 

 

「伊吹〜〜」

大学の近くのファミレスで落ち合うことになっていたので、そこに行くと龍之介はすでに来ていた。

「日替わりオーダーしといたよ」

「はい。すみません」

コートを脱いで席に着く伊吹の左手をチェックする龍之介・・・

「えらい、えらい。指輪外さなかったね」

「え?」

「伊吹はこういうの、あまり好きじゃないのかな・・・・って思っていたから。アクセサリー系全然しないじゃない。

迷惑だったかなあ・・・とか思って。」

ふっー 

あきれたように伊吹は笑う・・・・

「そんなわけないでしょう。龍さんから貰ったものは総て宝物です。」

「でも・・・これは拘束の意味もあるんだ。僕の存在を主張する為のものだから」

料理が運ばれてきて2人は話を切る

にこやかに去って行くウェイトレスの後姿を見届けて、伊吹は口を開く

「最近、独占されて支配される事に喜びを覚えるんです・・・」

「やだあ〜もしかして・・・Mなの?」

ケラケラ笑いつつ冗談飛ばす龍之介に、伊吹は真面目な顔で答える。

「いいえ・・龍さんにだけ」

突然、龍之介の顔から笑顔が消えて俯いて顔を背ける・・・・耳まで赤くなっている。

雰囲気を変えるため伊吹は話題を変える

「それはそうと・・・今日は事務所の金居嬢に指輪、見つかって大変でしたよ。彼女持ちということにされました・・・」

「否定しなかったの?」

照れくさくて、俯いたまま訊く龍之介が伊吹には可愛くてたまらない

「しなくていいでしょう?本当に恋人いるし・・・」

「でも・・・彼女じゃないよ」

「ですねえ・・・」

笑いつつ食事を続ける伊吹

「いや、実質上似たようなもんかなあ」

ガチャン・・・・伊吹の手からナイフとフォークが落ちた・・・・

(え??)

固まる伊吹に笑顔を向ける龍之介・・・・

「いいよ。そういうことにしとこう」

龍之介は気を取り直し、食事を再開する。あまり深い意味はなさそうだ

「?伊吹?どうしたの・・・」

深読みして固まった鬼頭の若頭は、再起不能だった。

 

 

帰りにデパートに寄って、寝具売り場を並んで歩く・・・・

「何買うの?」

鬼頭の若頭はしょっちゅう所帯じみた処に出没する。

「冬の毛布を。寒なってくるし・・・」

「家から持ってくればいいじゃない?年末年始は大阪に帰るよねえ・・・」

「はい。今回は一緒に帰りますよ。でも・・・結局洗う事考えたら替えがいるんです」

「・・・・くっついて寝たら寒くないよぉ・・・」

「いいえ・・・龍さん・・・服、脱いだまま寝てるから・・・」

(え?)

龍之介は立ち止まる・・・・・

「でも、朝起きたら僕、パジャマ着てるよ〜」

「・・・・それは・・・私が・・・」

(着せてくれてるっていうの?オカンか・・・・)

「そういえば、伊吹って・・さっさとパジャマ着てない?」

「着てます」

毛布の手触りを確かめつつ物色する伊吹・・・・あれこれ迷うところもオカンっぽい・・・・・

「これ・・・どうですか?」

選んだ毛布を指して訊く伊吹に龍之介は苦笑する・・・・・

「いいねえ・・・」

 

伊吹が支払いを済ませている間、龍之介はふと考える・・・・・

(大阪にいる間はもしかして・・・・・)

「お待たせ・・・」

毛布を手にやってくる伊吹が売り場であまりにも浮いていた・・・・・

「ねえ、大阪にいる間は僕達は・・・」

「別室です」

(・・・・・・・・・・・やはり・・・・・)

「それに、伊吹は忙しいしねえ・・・」

駐車場にむかう途中で、黙り込む龍之介。

「それでも、組長とお正月迎えるのが親孝行ですよ」

(そう、僕達は二人だけで存在するのではない・・・・ましてや、僕はこれから組を背負う事になる身・・・・)

責任の重さがひしひしとやってくる・・・・

(伊吹はそんな中、ひとりで色々こなしてきた。僕が伊吹にべったりはり付いている間も・・・)

 

 

「何・・・考えてはります?」

車に毛布をつんで、伊吹は龍之介を振返る

「うん。伊吹がオカン化した経路について・・・・・」

「!龍さん!!!」

 

 

「で・・・最近、龍さんは助手席に座ってますが」

車を運転しながら、気になりつつ口にしなかった疑問を、伊吹は投げかける・・・・・

「後部座席じゃあ、伊吹との距離が遠すぎる」

「でも、少なくとも8代目襲名後は後部座席に座らはらへんと・・・」

「・・・じゃあ・・・それまで」

 

それまでの・・・・・ほんのひと時の間・・・・・

 

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