発覚 4

 

 

一週間は何事もなく龍之介と伊吹の新婚生活は過ぎていった。

 

ある日、事務所から出てきた伊吹はエレベーターの前で呼び止められた・・・・

「兄さん」

振返ると大阪にいるはずの南原圭吾がそこにいた

「南原・・・・なんで・・お前ここに・・・」

 

 

バーの一角で伊吹と並んで座った南原は、ウィスキーのグラスをあおる

「おい、なんか食うたほうがええぞ・・・すきっ腹に酒はいかんぞ・・・・」

「兄さんもどうぞ・・」

ボトルを向けられて押しやる伊吹

「俺は車やから。」

 23才の優秀な部下。1つ話せば10を知る明晰な頭脳・・・・ポスト藤島伊吹の異名を持つやり手の南原が壊れている

嫌な顔一つせず、何でもこなしてきた南原が駄々っ子になっている・・・・・

「すまんな・・・お前に何でも押し付けすぎたんやなあ・・・お前はデキがええからついつい甘えてしもうて・・・

なんか問題でもあったんか?」

「問題?ありますよ・・・問題。若頭代理・・・そんなんええんです、なんでもありません。兄さんの為なら

下僕にでも奴隷にでもなる覚悟できてますさかい・・・・」

「いや、そんなモンにならんでええぞ・・・」

困り果てる藤島伊吹・・・・・・・・

「その私に・・・この仕打ちはひどいやないですか・・・・」

(何のこと?)

「情夫(いろ)て・・・なんですか?それ、ほんまなんですか?」

(ぎくっ)

「お・・・お前・・・何処で何を聞いた・・・」

「昨日・・・薫子さんが組に電話してきやはって・・・兄さんが誰かのイロになったとか何とか・・・」

(え・・・・・)

「イロて何か訊いてきはりました・・・・・」

(そんな事訊くなよ・・・・・・)

ふ〜ため息の伊吹・・・・・・・

「それで、俺が誰かのイロになったのが気に入らんゆうのか?・・・・余計なお世話や」

ひ〜〜〜〜ん

泣き崩れる南原を前に引きつる伊吹。

「・・・・ぼんですやろ」

力なくつぶやく南原・・・・・・・

「ぼんに決まってる。兄さんには、ぼんしか見えへんのや・・・」

「お前!まさか・・・・ぼんの事!」

いきなりしがみついてくる南原・・・・・硬直する伊吹・・・・・・

「何でそうなるんですか!兄さん・・・私はずっと前から・・・兄さんの事を・・・」

(え?)

「兄さんだけ見てきた私は、どうなるんですか!」

(そんな事言われても・・・・・)

「身も心も総て兄さんに捧げると決めた、私のこの思いはどうなるんです!」

周りの女性客の刺すような視線に耐えかねて、伊吹はそそくさと支払いを済ませて南原を引きずって車に乗せる。

「公共の場でやかましくすると、堅気さんに迷惑かかるから、取り合えずマンションに行こう」

 

 

「南原さん!」

ドアを開けた龍之介は叫んだ・・・・・

「ウチから電話があって、南原さん行方不明になってて・・こっち来てないかって」

(行方不明かい・・・・・)

ため息をつきつつ、伊吹は南原をソファーに寝かせる。

その時 電話が鳴り伊吹がとると、哲三の声が聞こえた・・・・・・

 

「伊吹か・・・南原が行方不明なんや。よその組のモンに拉致されたおそれが・・・・」

「それはありません。ここにおります・・・私に文句いいにきよりました」

「・・・・なんの文句や・・・」

「あいつの気持ち無視したから怒っとるんですわ。今晩はここに泊めて明日帰しますから・・・」

「すまんな・・・・頼んだぞ。」

 

受話器を置いて伊吹は途方に暮れる・・・・・

 

「どうしたの?南原さん・・・・」

「ああ・・・・なんか、私が龍さんの情夫(いろ)になったのが気に入らんのです・・・・」

「・・・・やっぱり・・・・南原さん、伊吹の事、好きだったんだ」

「え・・・」

「知らなかったの?伊吹見る目が普通じゃなかったもん」

あまりにも南原に無関心だった事に伊吹は気付く・・・・・

「寝かしときましょうか・・・・取りあえず」

 

ダイニングで会議を始める龍之介と伊吹・・・・

「何処から漏れたの?」

「薫子さんが・・・”イロ”とは何か訊かはったそうです」

(あの時・・・・僕が答えなかったから・・・・・)

「それだけでも勘づくんだ・・・・さすが伊吹の側近だなあ」

と紅茶を一口・・・・・・・・

伊吹は途方に暮れている

「悪いとは思うけど、しょうがないじゃん。僕らは相思相愛で、南原さんは完全片思いだったんだし」

ドライな龍之介の言葉が伊吹に突き刺さる・・・・・・・

しかし・・・・しかし・・・・・

伊吹には南原は可愛い舎弟・・・懐刀だったのだ・・・・・

「なに揺れてんの?だからって南原さんと浮気なんかしたら、2人とも指ツメじゃすまないよ。」

強気に出る龍之介に、驚愕の伊吹

「・・・・どうして、そんなに強気なんですか?」

”自信ないよ〜〜‘ひ〜〜ん”と言っていたあの龍之介は何処へ?

「人情に厚いのはいいけど、斬るときは斬らないと」

人が変わってしまった龍之介・・・・・

「明日の朝、僕が話しつけるから今日のところは寝よう。こういう事態だから、今日は特別に別室で休む。解散」

 

あれから変に度胸が据わり、次期組長の器になりつつある龍之介・・・・・・・

戸惑うやら頼もしいやら・・・・・・・・・・

 

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