恋慕 3

 

 

ケーキにロウソクを立ててケーキカット。恒例の儀式が夕食後なされた。

「早いですねえ、もうあれから14年経つんですねえ」

紅茶を入れつつ伊吹はしみじみとつぶやく

「伊吹ももうすぐ29か・・・・」

自分と伊吹のケーキを切りつつ龍之介は笑う

「私のことはええんです。ぼんも来年は成人式ですねえ」

「伊吹の成人式、お祝いしてなかったでしょ?」

「ああ・・・・」

当時忙しくしていて逃してしまった

「なんか、かわいそうな伊吹・・・・これからは僕がちゃんと誕生日も、還暦も、米寿もお祝いしてあげる」

とケーキを食べ始める・・・・・

(なんか・・・話が飛躍してますが・・・・)

「これ、甘すぎなくておいしいね」

初めてケーキの味に気付く・・・

「ウチの事務員の女の子が教えてくれた店で買いました」

「若い女の人いたんだ・・・」

「ああ。派遣で雇いました最近。」

しばらくの沈黙のあと龍之介が口を開く・・・・

「美人?その人・・・・」

「普通です」

(その人が伊吹の事好きになったらどうしよう・・・・)

あらぬ方に想いが行く龍之介

「なんか、変なこと考えてるでしょ?」

「え・・・」

「カレシいますよその事務員」

(よかった・・・)

「ぼんはすぐ顔に出ますねえ・・・8代目継ぐ前にそのくせは直しましょう」

世界中の女は皆、伊吹に惚れるに違いないと思っている龍之介

かなり伊吹バカである・・・・・・・

 

 

「風呂沸きましたからいつでもどうぞ」

湯加減を見て浴室から伊吹が叫んだ

ケーキ皿とカップを洗い終えて龍之介は濡れた手を拭いて浴室へとむかう・・・・・

「一緒に入ろうよ〜」

「また、そういうことを・・・・」

浴室から出てきた伊吹が困り顔でため息をつく・・・・

「なんで・・・」

「戸締りと火の始末しときますから入ってきてください」

「恥ずかしがらなくてもいいじゃない?」

「ぼん!」

「・・・・・」

伊吹にしかられて、しおしおと浴室に消える龍之介

 ため息をつく伊吹・・・・・

今日一日することが多くて、龍之介のように、そわそわも、ドキドキもなかったが・・・

(というか・・・疲れた・・・歳かな)

自分が育てた天然美少年に翻弄された日々・・・

それは終わることは無い

少年が青年になっても中年になっても伊吹はおそらく彼の言葉、仕草の一つ一つに自分の総てをかけるだろう

鬼頭龍之介という微少年のウィルスに冒された自分・・・・・・

 

戸締りをしつつ感慨深い伊吹の後ろから、龍之介は頭にタオルを被り、バスローブ姿で現れる・・・・

「出たよ〜伊吹も入って。今日はさっさと入ってよ・・・」

「ドライヤーを・・・」

引き出しを開けて伊吹がドライヤーを取り出すと、龍之介はそれを奪う。

「自分でやるから〜伊吹は風呂!」

「はい。そんなに焦らんでも・・・・」

「いや。焦る。今日は僕が伊吹にドライヤーしてあげるからね〜」

(ぼんは・・・・テンション高いなあ・・・・)

「はい」

龍之介はすばやく物干しから乾いたパジャマを取ってきて伊吹に渡す

「もう寝るんだから風呂上りはパジャマ。」

「え・・・」

長い間パジャマで人前に出たことが無い伊吹は戸惑う・・・・

「何ひいてんの?ワイシャツとスラックスは、僕の部屋に掛けといてあげるから心配しないで」

「・・・・それはどうも・・・気が利きますね」

いつもの生活スタイルを崩されて、戸惑う伊吹・・・・とりあえず浴室へ・・・

 

「何で伊吹には、部屋着という物が無いんだろう・・・」

トレパンでくつろぐやくざは めったにいないと言う事に気付かない龍之介

いつも非常時に供えて、服装は崩さない。それが藤島伊吹・・・・

滅多に自分でしないドライヤーをしつつ、思い悩む龍之介。

「結構・・・・伊吹って、24時間働いてるんだなあ」

昼間は組のこと、空いた時間は龍之介に費やす伊吹・・・・

(ダメだ・・・・家事全般交代制にしないと・・・自分のことは自分でしよう)

決意する龍之介のまえに、タオルを首から掛けたパジャマの伊吹が現れる・・・・

「凄く久しぶりなパジャマ姿だねえ・・・10年ぶりかなあ・・・」

それよりも新鮮なのは、前髪を下ろした洗い髪だった・・・・

「そうしてると若いよねえ・・・」

と無理やり伊吹をソファーに座らせ、ドライヤーを始める

「伊吹の髪、柔らかいんだ・・・真っ黒だから堅いと思ってた」

誰かに髪を乾かしてもらうなど、何十年もの間無かった・・・・

伊吹はぎこちなく、なすがままになっている

「いいねえ、こういうの。これから僕がしてあげるよ」

「いえ、こういうのは・・・慣れてませんから・・」

ふふふ・・・・

ままごとのようなひと時に満足する龍之介は、上機嫌でドライヤーを引き出しにしまい、タオルを洗濯機に入れる・・・・

「戸締りした?」

伊吹の前に立つと、かがんで首をかしげる・・・

自分では気付いていないが、首をかしげて顔を覗き込む仕草は、龍之介の必殺技である。

”殺人微笑”は誰かれ無しに発動するが”首かしげ”は2人きりの時の伊吹にだけ発動する・・・・

明らかにおねだりモードに入っている・・・・

「はい」

ポーカーフェイスの伊吹の内心は ”かわいい〜〜〜” 状態に軟化している。

「じゃ、行こう」

立ち上がった伊吹の首に、龍之介は腕をかける

「抱っこ」

お姫様抱っこで寝室に運ばれる龍之介・・・・

「これも、何かの映画の影響ですか?」

ベッドに龍之介を下ろしつつ、伊吹は訊く

「常識でしょう?新婚初夜は新婦を抱えて寝室に入ることになってるじゃない!」

とことんヨメになりきる龍之介・・・・・・

だんだんプレッシャーな伊吹・・・・・

 

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