恋慕 1
とにかくその日はやって来た。
10月25日鬼頭龍之介19歳の誕生日が・・・・・・
午前の講義を終え、伊吹と昼食・・・そして水族館へ
「毎年水族館で飽きませんか?」
薄暗い館内に、うっすらと光を放つ大きな水槽が幻想的だった。
「伊吹と一緒なら飽きないよ」
そっと腕を組んで歩き出す・・・・・・・
「何で、水族館なんですか?」
「何かの映画の影響じゃないかなあ?」
「なるほど・・・」
そういえば、こんな水槽をバックにしたラブシーンがあったような、無かったような・・・・・・
「少し薄暗いのも魅力なんだって」
周りのカップルも腕組み状態である
「伊吹の誕生日は11月じゃない?何か欲しいものある?」
紗枝が無くなってからは、伊吹の誕生日に何か特別なイベントを企画する人も無く、唯一、龍之介が学校の帰りに
チョコパイを買ってきて、それを積み上げてケーキを作り、ろうそくを立てて祝っていた。
「欲しいものは、今日手に入る予定ですから・・・」
「大学生になって、お小遣いも値上がりしたし、あまり使ってないから、今年は大きいケーキ買えるよ〜」
ふふふ・・・・
伊吹は笑う・・・・・
「チョコパイでええですよ・・・小学生のぼんが、どうやってあんな事考え出したのか。なかなか斬新なアイディアでしたよ」
「本当に。通帳に結構貯まったよ〜」
ムキになる龍之介・・・・
確かに・・・・学用品、参考書、たまに服を買う他は使っていない・・・・・
「ぼんの誕生日に、私の誕生日の話するのは場違いでしょう」
「だって、僕ん時だけこんなにしてもらって悪いじゃない?」
「好きでしてるんで、ええんですよ」
ふう〜〜ん
龍之介はふくれる・・・・・
「僕が8代目継いだら、スーツの1着や2着作ってあげるよ」
「はい。お願いします」
大笑いの伊吹に、更にふくれる龍之介・・・・・・
プレッシャーも、迷いも、焦りも不思議と無い・・・・・穏やかにその時を静かな気持ちで待てる
何かの始まりでも、終焉でもない、日常のひとこまとして受け入れられる・・・・・
「さて、ケーキ買って、お好み焼きの買出しして帰りましょう。」
水族館を出ると日差しが眩しい・・・・・
「そういえば、ホットプレート家にあるよねえ。フライパンでなくて、あれで焼きながら食べるのがいいんだけど」
「持ってきました・・・・あれ。」
「え?」
何時の間に・・・・・・・
「どうせあれ、使うのは私だけですし」
組では誰一人、お好み焼きを焼くものはいない・・・・(というか、そういうものに神経を使うものはいなかった)
「焼きソバも焼けるし、焼き飯も出来るし。あれは必需品ですよ」
(こういうところはオバちゃんなんだよなあ・・・・・)
知れば知るほど不思議な若頭だった。
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