譲れない想い 2
「鬼頭君・・・・」
大学の廊下で、龍之介は呼び止められた。同じ学科の福田奈津美。サラサラショートボブの英文科のマドンナ。
「時間あったら・・・お茶でも・・・」
(またか・・・・)
と思いつつ、頷いて並んで歩き出した。
学校のカフェで、テーブル越しに向かい合って座る二人・・・・
「付き合ってる人いるの?」
知的な奈津美は、単刀直入に聞いてくる。
「いないけど」
「じゃあ・・・付き合って」
(やっぱり・・・)
いつもの事だった・・・・・・・
「その前に、僕の家のこと・・・・知ってる?」
「え?」
「父は関西鬼頭組7代目組長で、僕は・・・8代目を継ぐ予定の身なんだ。いわゆる・・・・極道。」
フリーズする美少女・・・・・・・
「皆そうなんんだ。自分で言うのもなんだけど、鬼頭君可愛い〜って、言い寄って来るけど、
家のこと聞いたら去っていくし・・・深い仲になる前に話とかないといけない事だから」
「鬼頭君・・・ずるいね」
(え?)
「その事言えば、あきらめるだろうなあ・・・コイツ。って思ってるでしょ。」
「実際そうだし・・・」
「そういう問題じゃなくて、私が好きじゃなくて断る口実に、家のこと利用してるように見える。」
(見抜かれたか・・・・・)
「確かに、私・・・それでも構わない! とは言えないわ・・・むしろ、この話、なかった事にして欲しい。
でも、なんか・・・・相手が断るように仕掛けてずるいよ。」
(そうだねえ・・・・)
龍之介は自嘲する・・・・・・・
「やはり、福田さんて頭いいねえ・・・・見抜かれちゃった。そうだよ。僕には好きな人がいる。
叶うかどうかは判らないけど、でも、その人だけしか愛せない。それは譲れない」
にこっー
奈津美は微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってくれたら、諦めつくわ」
立ち去る美少女の後姿を眺めつつ、龍之介は彼女が人として、学友として好きになる
しかし・・・・・譲れない・・・・・・
共に過ごした13年の歳月の重み・・・・交わされた情の深さ・・・・・・
それを上回るものなど無いと思う。
性別さえも越えて、愛してしまうほどに
(伊吹に会いたい・・・)
携帯を取り出すと、龍之介は伊吹に電話する。
「講義・・・終わったよ・・・来て」
廊下を歩くと、窓から秋風が吹き、龍之介の髪を揺らす・・・・・
10月は龍之介の誕生月。
誰が覚えていなくても、祝ってくれなくても、伊吹だけは忘れず祝ってくれた。それだけでよかった・・・・・
この日だけは、伊吹を独占できた。二人だけで過ごせた。
(最近はいつも二人っきりだから、水族館デートも、ありがたみないかなあ・・・・)
龍之介は、その日がいつもより特別な日になる事を密かに祈った。
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