夏休み 1
夏休みの半分を大阪で過ごすことにした龍之介は、加瀬と大阪に・・・・・・伊吹はそのまま東京に残った。
「ぼん お帰りなさい」
鬼頭組では南原達が出迎えてくれた。
「藤島の兄さんは、変わりありませんか?」
若頭代理を任せられた南原は、健気にも頑張っていた。
「うん。元気だよ。南原さんに宜しくって言ってたよ・・・」
と、ある包みを差し出す・・・・
「伊吹から特別にお土産。浅草に行ったとき買ってきたんだ。」
「なんですか・・・」
「扇子・・・・暑くなってくるから、これで扇いでね・・・」
「・・・・・」
(これって・・・・暗に若頭任せたということを表してんじゃあ?)
考えすぎな南原・・・・・・・・
最初は近くの友達に会ったりしていた・・・・・
が・・・・・・すぐ暇になった。
加瀬は毎日のように来るが、龍之介は上の空。
伊吹の禁断症状が出てきた・・・・・・・・
(依存症なのかなあ・・・・)
ある日、自分を分析してみることにした。
べったりしていないとダメな状態では、いけないということは判る。
どうすれば この状態から抜け出せるのか・・・・・
「ぼん・・・活気ないですねえ・・・」
南原が心配してきた。
「依存症かな・・・・」
「は?」
「伊吹に依存しすぎたみたい・・・」
「はあ・・・・・」
「どうしたらいい?」
「気を紛らわせるとか・・・」
(そうか・・・・)
と龍之介は思う。することの無い、暇な毎日がいけない。とりあえず学校の課題に取り組んだ・・・・毎日毎日。
・・・・・総て・・・終わってしまった。
(後は・・・・遊ぶだけ??)
苦笑する・・・・・・
しかし・・・・課題に明け暮れていた時間は有意義だった。
(伊吹も、仕事中はこんな感じなのかなあ・・・)
なんとなく悟りの境地を開いた気になる・・・・・
続いて射撃訓練もしてみた・・・・・
といっても”おはじき貸して”とは言いづらかったので、モデルガンで空き缶を撃ってみた。
皆に”素質がある”と言われ、その気になってやり続けた・・・・・
他の事に集中すると、結構忘れるものだと気付いた。
そうこうする内に、東京に戻る日が来た
「兄さんに宜しく」
南原に送られて、新幹線に乗る龍之介・・・・・加瀬も同伴で・・・・・・
「加瀬君、もうちょっとゆっくりしてても、よかったんじゃないの?」
「バレー部の合宿もあるから・・・」
「ふ〜ん」
(加瀬も結構忙しかったんだ・・・)
自分が、いかに暇だったかを知る・・・・・・・
加瀬と別れてマンションに・・・・・伊吹はまだ帰っていない。
忙しくしている間は寂しくも不安でもなかった
が・・・・・
部屋に一人いると”甘えた”に逆戻りする。ここは伊吹の気配がする・・・・家にいるより落ち着く。
ソファーに座ったまま、龍之介はううとうと眠っていた・・・・
ドアの開く音で目覚めた・・・
「ぼん・・」
会いたくて仕方なかった伊吹の姿があった・・・・
「伊吹〜」
立ち上がって駆け寄る。久しぶりに会うと、今までの何倍も慕わしい。
「お帰りなさい」
いつもと変わらない伊吹の眼差しに龍之介の心が満たされる。とても新鮮な気分だった。
離れてみなければ、判らない事もあるのだと気づいた。
「ただいま」
こうして、一人の夏休みが終わり、二人の夏休みが始まる・・・・・
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