恋人未満 3

 

 

 

あれから3日。龍之介は疲れ果てていた・・・・・

(なんで、あんなことしたんだろう・・・あれじゃ三条とおんなじだ・・・)

知らんふりを決め込んだものの、自己嫌悪の思いは日に日に湧いて出てくる。講義も耳に入らない・・・・・

終業のベルが鳴り、うつろに立ち上がると、事務員の女性が龍之介を見つけてやってきた。

「鬼頭君・・・学長室に来て」

「はあ・・・」

彼女のあとをついてゆく・・・・・

「鬼頭龍之介君連れてきました。」

そういって、学長室のドアを開ける事務員に続いて部屋に入ると・・・・

「若ぼん!大きなられましたなあ〜」

見覚えのある白髪の老人

「・・・信さん?島津・・信康さん?」

はははははは・・・・・

豪快な笑いも昔のままだった。

「どうしてここに?」

「特別講師で呼ばれたんですわ。今は陶芸家として、少しは知られてますさかい。若ぼんがここの大学通うてるて

聞きましたから、学長に呼んでもろたんですわ」

「島津さん・・・ここで立ち話もなんですから・・・カフェにでも」

「学食でええで。ちょうど昼食時間や・・・若ぼん、定食おごりますよ」

接待したがる学長を残して、2人は学食に向かう。

「いいんですか・・・・学長・・・」

「接待は窮屈なんや」

相変わらずの島津に、憂鬱な気分が少し晴れる。

「藤島に会うたよ」

「伊吹に?」

「相変わらずのオカンぶりに大爆笑したわ・・」

島津にかかると、鬼頭の若頭も唯の若造になる・・・・・

学生達と混じり並んでB定食を購入し、席に着く・・・・気さくな特別講師である。

「若ぼん・・・元気ないなあ・・・なんかあったんか?」

「色々・・・あったよ。つい最近も、伊吹に変なことして気まずいんだ・・・」

にっこり笑う島津・・・・

「藤島は気にしませんよ、多分。若ぼんが何しても、あいつは若ぼんから離れへん。

若ぼんがあっち行けいうても、ついてくるよ・・・・そういう、しつこい男や。」

「でも傷付けちゃったかも・・・」

「若ぼんに傷付けられるんやったら、喜んで傷つく男や。」

(?どういう事????)

理解不可能な龍之介・・・・・・

「溺愛の極致・・・ゆうとこかなあ・・・・自分より若ぼんが大事なアホ男や。若ぼんは自信持ってええよ」

そう言われても・・・・・

ため息をつく龍之介

「まあ・・・悩むのも青春や。若いうちに悩みなはれ」

鬼頭にいた頃から、祖父のように接してくれていた島津・・・・彼と話すと何故かほっとした。

「藤島が悩みよるから、何も無かった事にして、いつもどうり接してやってや」

龍之介は笑って頷く・・・・・・

伊吹の為に、自分が出来ることはそれしかない。

「信さん・・・ありがとう・・・」

食事が終わる頃、加瀬が2人を見つけてやってきた・・・

「龍君〜探したんだよ〜」

「加瀬のぼんやないですか?」

島津にそう言われて、加瀬はようやく龍之介と同席している老人に気づいた。

「あれ?信さん?すごい久しぶり・・・あ、今は陶芸家の島津先生だった・・・」

「信さんでええですよ・・・大きいならはったねえ・・」

そういって立ち上がった

「もういくの?」

「はい・・・午後の講義もありますから・・・」

島津の後姿を見つつ、龍之介は伊吹と同じ香りを感じていた。

 

 

 

「今日、信さんに会ったよ。特別講師で大学に来てたんだ」

夕食の席で龍之介は、何時に無くおしゃべりだった。

「伊吹にも会ったって言ってたよ」

「はい・・・」

(兄さん・・・・余計な事言ってないですよねえ・・・・)

不安な伊吹・・・・・・・

「夏休みね・・・大阪に帰ってくるけど、早めにこっち来るから、どっか連れて行ってね。」

「はい」

少し距離を置くのもいいと思う龍之介だった。冷静に考えてもなお、伊吹が必要なのかどうか・・・・

馴れ合いでなく、自立した立場で伊吹に向かい合う為に。

 

 

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