見合い 4

 

 

昼過ぎ・・・意外な人物が鬼頭商事の事務所に現れた。

「藤島・・・こっち来てるんやて?」

「島津の兄さん!」

昔、鬼頭にいた元幹部。島津信康。

先代組長の頃、若頭を務め、哲三を組長に育て上げたツワモノ。

今は引退して陶芸家として名をはせている・・・・・

「もう兄さんはなあ・・・どっちかつーと”爺さん”やろ?」

真っ白な髪・・・・年輪の刻まれた容貌・・・・しかし眼光の鋭さは変わらない。

「変わってませんよ・・・あの頃と」

「嘘付け・・・老けたやろ。お前は一段と男っぷりあげたのう」

応接室に通して、伊吹は安田女史にお茶を出すように言う・・・・

「あの時は、ほんまにお世話になりました」

伝説の鬼頭の影の大ボス・・・・組の仕事を始めたばかりの頃、伊吹は彼の教育を受けたのだ。

「若ぼんは元気か?」

「はい。もう大学生です。F大通ってますが相変わらず・・・」

「甘えたか?」

「はい。兄さんは組長を育て上げたお方と聞いておりますが・・・・ご教示願いたいもんです」

安田女史がコーヒーと洋菓子を持ってきた

島津はコーヒーを一口飲むと笑った・・・・

「そりゃあしゃぁないわ・・・哲ぼんの息子やさかい・・・・」

「え?」

伊吹は話が読めない

「哲ぼんなあ、昔は、甘えたのあかんたれやった・・・・苦労したで・・・・」

初耳だった・・・・・・

「紗枝姐さんが、支えて来はった部分も大きい・・・守りたいもんが出来たら男は強うなるモンや・・・」

はははははは・・・・

昔を思い出して島津は笑う・・・・懐かしい、いとおしい日々・・・・

「心配すんな・・・虎の子は虎。獅子の子は獅子や。」

何処かで聞いた・・・いや言った台詞だと伊吹は思う

「お前はようやってるよ。」

「でも・・・最近、思春期で・・難しいんです・・・」

「若ぼんがか?」

「あと・・・私の見合いの話に、ナーバスになってるんです」

「見合いするんか・・・まあ、もうええ歳やし・・・身ぃ固めや」

「でも・・」

「乗り気やないんやな、若ぼんもお前を盗られるみたいで焦ってる・・・」

洋菓子をつまみつつ、解析を始める島津・・・・・・

「ほんまに、若ぼんに一生捧げる覚悟してるんか?」

「はい。」

「何もかも全部か?」

「はい。」

島津はにっこり笑ってうなづいた。

「安心したわ・・・お前ら相思相愛じゃ。100年、いや1000年に一度あるかないかの良縁やな。」

「は?」

「ちと・・・ねじくれた運命ではあるがなあ。わしは反対せぇへん。多分、哲ぼんも反対せんぞ」

苦笑する島津・・・・・・

「自然体でいけ・・・若ぼんの事だけ考えてたら、おのずから答えは出る。」

この言葉の真意を、伊吹は後に知ることとなる

「また作業場にも顔出してくれ。」

名刺を置いて島津は立ちあがった。

「はい。」

伊吹は頭を下げる・・・・・

迷った時は、いつも現れて道を指し示してくれる恩師。いつもいつも助けられていた・・・・

「兄さんみたいになりたいです」

ふっー

破顔した島津の顔は、やはり、昔の鬼頭の幹部の頃と変わらなかった・・・・・・

 

 

伊吹の中の迷いも、何時しか消えていた・・・・・・

 

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