誘惑 1

 

 

「でもね・・・」

夕食の洗物の途中で、龍之介は口を開く

「最近・・・・伊吹のこと意識しちゃって・・・ドキドキするのって・・・変?」

へ????

あからさまな告白に凍りつく伊吹・・・・

「小さい時の”好き”と今の”好き”は違う気がする・・・・」

「え・・・・それは・・・」

言いよどむ伊吹・・・・・

「僕・・・ホモだったらどうしよう!伊吹!それでも傍にいてくれる?」

ガシャ〜ン

とうとう、伊吹の洗っていた皿が割れた

「ぼん・・・・」

(遅い思春期がやって来た・・・・)

伊吹は呆然とする・・・・・・・

今まで”好きな女の子がいるんだけど・・・”とか”最近女の子のことばかり考えちゃうんだけど・・・”

などと言う発言をついぞしなかった龍之介が、18歳でいきなりあろうことがホモ発言した・・・・・

(どうしよう・・・・)

思春期の子を持つ母親な気分の伊吹・・・・・

しかし・・・・・

伊吹自信、自分に思春期が無かった事に気付いていない。

龍之介一色の彼の人生・・・・・・

「もしかして僕、伊吹に 三条がしてたようなセクハラしてたのかなあ・・・ちゅーの強要してごめんね・・・」

「いえ・・・・ぼんのそういうところが可愛いんですけど・・・!あ・・いえ・・」

めったに見れない動揺する伊吹・・・・・・

「伊吹が迷惑なら、もう強要しないよ」

「迷惑って訳ではないんですが・・・」

「じゃあ・・いいの?」

「ぼん・・・一回キスしたら、毎日してして〜になったでしょ?毎日してたらず〜っとしてして〜になるんですよ」

「それが・・・なにか問題になるの?」

う〜〜〜ん

うなる伊吹・・・・・龍之介とは思考のベクトルが違う・・・

「欲望のコントロールは大事ですよ」

「ちゅーし続けると、悪い事でも起こるの?」

「それだけで済まんようになります・・・・」

(ちゅーだけで済まない・・・・・!もしかして・・・・加瀬の妹のアレ???)

「それは大変だ!!!」

「判ってくれはったらええんです」

 

 

 

「ねえ・・・ちゅーだけで済まなくなったとしても・・・傍にいてね・・・」

 

ガシャンー

 

2枚目の皿が割れた・・・・・・

 

「伊吹は・・・そういうこと・・なかった?」

「どういうことですか?」

「誰かを意識して・・・ドキドキするとか・・・・」

龍之介が高校生になった頃からだろうか・・・・・

なんとなく、一線を置くようになった・・・・あまり近くにいれなくなった・・・・

白い滑らかな頬に触れたくなる・・・・薄紅色の唇に触れてみたくなる・・・・

「ありました・・・」

「誰?」

(ぼん・・・て!俺もホモなんか!)

「ねえ・・・・こんな思いって、どこからくるんだろうねえ・・・・僕は男とか女とか関係なく伊吹が好きだよ。

でも、男女間の恋愛みたいに意識してドキドキってなんなんだろう・・・」

それは伊吹が、ずっと抱えてきた課題。そして、葛藤してきた問題・・・・・・・

「もし・・・僕が男を好きな変な奴で・・・伊吹に襲い掛かっても嫌わないでね」

(はあ?!)

「・・・・・ぼん・・加瀬の部屋で・・・何見たんですか・・・」

「やおい本だとかいう同人誌・・・・」

ガシャンー

伊吹の手にした茶碗が割れる・・・・・・

割れた茶碗の破片で、伊吹の左手の人差し指が切れた・・・・

(加瀬!!!あいつ何者?)

「!伊吹!!指切れてる!」

龍之介は、血の出ている伊吹の人差し指に唇をあてて、血を吸った。

(え!?)

動揺する伊吹・・・・・傷口に触れる龍之介の舌先の感覚が生々しくて眩暈がする・・・・

「そんなに傷深くないから・・・舐めとけば治るかな・・・・」

(!!!!!!〜)

薄桃色の舌先を、傷口にあてた龍之介の上目使いに撃沈する伊吹・・・・

 

(・・・・あのぉ・・・身がもちませんが・・・・・・)

泣きが入る・・・・・・

 

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